書籍の縦組み横組みを、読者視点から制作者が考える

現在、出版されている日本語の書籍には縦組みと横組みがある。長年エディトリアル・デザイナーとして、多くの書籍の本文フォーマット・デザインや組版に携わってきた。そこでは縦組みか横組みかを決める明確な定義はない。しかし読者として読みにくい組方向がある。「組版ルール」や「これが読みやすいと言われている」などの規則や慣習は抜きにして、読者の一人として文章が読みやすい、読みにくいが制作者とは別にある。

業界の慣習としての組方向

内容によりこれは縦組みで、これは横組みという明確な定義はないので、縦組みでも横組みでも本来は制作側である編集者やデザイナーの自由である。
しかし何となくジャンルによる慣習というものはあり、文学書、小説、新書やエッセイなどの文芸書は縦組み、IT関連などのマニュアル系、学術的な専門書は横組みとほぼ決まっている。これ以外のものは、縦横混在していると言って良い。雑誌などは一冊の中に縦横が混在している。ただし、気を付けなければならないのは、縦組みの場合は、本の右をとじるので、視線は右から左へ向かう。これに対して横組みの場合は、本の左を綴るので、視線は左から右へ向かう。この組み方と綴じ方の関係は、現代日本語の性質上、逆らうことはできない。慣れの問題かもしれないが、例えば、縦組みの小説を左ページの左端から右の行へ向かって読むことが、もしあったのなら誰でも違和感を覚えるだろう。あり得ないが。

縦組み:視線の流れと右綴じ
横組みと左綴じ
横組み:視線の流れと左綴じ

組方向の、ある規則

ジャンルにより決まっている組方向は、長年にわたり決まったフォーマットなので、読者にとっても安心して読むことができる。文庫の小説が左綴じで横組みだとしたら、かなり違和感があるかもしれない。
ジャンルで決める組方向以外にも、実は読みやすい、視認性が良い組方向の決め方がある。これは私が読者として感じる事であり、制作者としてではない。

例えば、内容にアルファベット等の横文字が多く登場するもの。

新選 国語辞典 新板(小学館)
クラウン仏和辞典 第3版(三省堂)

2つとも辞書だが、日本語のみの国語辞典は縦組みで、フランス語が多い仏和辞典は横組み。これらは両者ともに問題なく読みやすい。ただし国語辞典の方の数字は算用数字ではなく、漢数字となっている事に注意。縦組みには漢数字の方がしっくりくる。
ジャンルにより組方向が決まっているものもあれば、組方向が特に決まっていないジャンルの本もある。
例えば音楽系の書籍。文芸作品に近いためなのか、縦組み右綴じの書籍が多い気もする。実はここで縦組みにした事で、読みにくい書籍が出てくる。

ブリティッシュ・ロック大名鑑 一九五〇年代~七八年(柏書房)

これはイギリスのミュージシャン辞典で、分厚いはこ入りハードカバー本なのだが、カタカナ、アルファベット、算用数字、漢数字が多く混在しているため非常に読みにくくなっている。しかも1段組がより読みにくさに拍車を掛けている。
本文中に画像も多く挿入されているのだが、無理やり入れ込んだような違和感もある。先述の辞書も縦組みの場合は、図版が無理やり挿入させられている感じがする。
(組版とは関係ないのだが、辞書なので人名、グループ名で引くのだが、英字も併記されているとはいえ、見出しがカタカナなのに、アルファベット順というのも実用性に乏しい。)
この本が例外という訳ではなく、音楽系書籍は何故か縦組みが多い。
カタカナ、アルファベット、算用数字を本文中に多用するような内容の本は、横組みにするのが読みやすく妥当だろう。また、図版が多い場合も横組みの方が分かりやすい。実際、論文からの引用が多い分野の専門書になると、横組みが多いのも確か。読みやすさを考慮した結果だろう。

縦組み組版作業する場合の一般的な規則

制作する側からの視点で見ると、縦組みの組版作業を行う場合、一般的な規則というのがある。一般的なので、もちろん例外もあれば、従う必要もない。JIS規格で決まっているなどと、組版専門家に厳しく言われそうだろうが、ここではあくまで一般読者の感じた事として書く。
ちなみにデザイナー界でも、一番文字に厳しくこだわりがあるのは、エディトリアルデザイナーか写植オペレーター出身のDTPオペレーターなど。彼らは縦組みが好きだ。

例えば、数字の処理。
全て縦組みだが、一桁の場合は、全角でそのまま。
二桁の場合は、横に並べる。そして制作者によるが横方向に70~80%縮小する。昔の文字指定で言うと「長3」または「長2」。
三桁以上の場合は、一文字一文字縦に並べ、横組み時のカンマ(,)は、読点(、)に代える。
そしてアルファベットは全て縦が基本。ただし長い場合は、横に回転させることもある。

縦組みにおける、2桁以上の数字処理例

見た目だけではなく、InDesignなどで組版作業を行う際も、縦組みは横組み比べて、数段難しく設定も複雑になる。

電子思考へ… 戸田ツトム著(日本経済新聞社)

縦組み中のローカルルールによる数字処理例。小数点以下の数字や英語ソフト名は、全角縦組みではなく、半角横組みのまま回転させている。この方が確かに読みやすい。しかし、もしこれらが多用されるのであれば、思い切って横組みにした方がより読みやすくなると思うのだが。

WEBサイトの場合

WEBサイトの場合は、デフォルトが横組みなので問題はない。ただし時々奇をてらっているのか、あえてひと手間加え、縦組みにしているサイトがある。当然、横スクロールが必要になるため読みにくい。もちろんヘッダのキャッチコピーに使うような短文であれば、縦組みにすることで効果的な使い方もできるだろうが、通常のWEBサイトとしては、本文を縦組みにして読者に読みにくさを強いるべきではない。
これは文字中心のWEBサイトだけでなく、典型的な右綴じ縦組みのマンガの問題でもある。WEB上で読むようになると、縦スクロールを前提にコマ割りや全体の流れを考えて構成しなければならない。紙のときとは異なる対応が必要だ。

これからは基本的に横組みが無難

これは組版作業者というよりも、一読者としての考えだが、やはりアルファベット、数字、カタカナ、図版を多用するような書籍は、基本的に横組みの方が圧倒的に読みやすいし視認性もいい。多くの書籍制作の現場では、デザイナーなどの制作者が手をつける前に、すでに編集者などデザイン全体をまとめるディレクション担当者により組方向は決まっている。もし、デザイナーなどにその決定権がある場合には、今一度内容を考慮し組方向を考える必要があるだろう。なんとなく格好いいから縦組みにすると言うのだけは止めてもらいたい。

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