“職人”デザイナーとして心がけていること

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まだデザインの仕事を初めて間もない頃、友人や知り合いと「何やってるの?」「デザイナーやってる」などと会話をしている中で、よくあったのが「デザイナーって、自分の好きなデザインができないから辞めた」という会話。どうやら、注文主の意見により、自分の思い描いた通りのデザインができないことが不満で、デザイナーを目指すことを辞めたとか。その人はデザイナーを職業にしなくて正解。有名になっても自分が思い描いた通り、自分のやりたいように100%できる商業デザインなどないからだ。数十年前の話だが、今でも何かに連れ思い出すエピソードである。

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アーティスト系デザイナーと職人系デザイナー

一口に職業=デザイナーと言っても幅が広く、私の場合は、広告、書籍など紙媒体のアナログ系と、WEBやアプリなどデジタル系のデザインを扱うことが多い。全ての案件には、客が存在して、客から注文を受け、作業をして、納品する。

アナログ系でもデジタル系でも作業工程は同じで、注文を受けてから、最初の段階でヒアリングをする。目的や方向性をていねいに聴き出し、その後デザイン案を示し、その中で客の注文を反映させながら何度も修正し完成させる。基本的には客の注文通りに仕上げる。この様に書くと、客の言いなりのままやるのかと言われるが、そうではない。
作業途中で客にプロフェッショナルなりの知識、経験上からの助言や提案を行う。

例えば、初めに提出したデザイン案にいボタンがあったとする。
客から「そこはが好みなのでにしてくれ」と注文を受ける。
私は「は注意を引く色で、このボタンはそのような機能ではない。むしろ逆の機能なのでの方が適切」と助言する。
しかし客から「それは分かっているが、どうしてもにして欲しい」と再度注文を受ける。
私は「分かりました。にしましょう。」とデザインを修正する。
注文し金を出すのは注文主であるので、これ以上の議論は必要ない。
もちろんデザイナーである私は、自分の案が通らなかった事で、少しは落胆するがそれ以外の感情はない。それが職人である。

ここで食い下がり、頑固に「いや、これは明らかに間違えているのでのままにします」と注文主の言うことを聴かず、自分の意思を通すのであれば、そのデザイナーは職人ではなく自己表現をするアーティストである。当然注文主は、そのデザイナーを切るか、金を払わないだろう。注文と違うものが出来上がるのだから。
そば屋に入り、ざるそばを頼んだら、料理人がその時の気分だからと言って、たぬきそばが出てくるようなものだ。
私も好きなイギリスのデザイン集団Hipgnosisは、松任谷由実の1981年のアルバム「昨晩お会いしましょう」のジャケット・デザインを担当している。プロデューサーである松任谷正隆のインタビューを読むと、デザインを依頼したら、まず15枚の作品を示され、この中から選んでくれと言われたそうである。このインタビューの前後を読むと、この段階で音は聴いていない。これはいかにもアーティスト系デザイナーらしい話だ。

アーティスト系デザイナーを非難するつもりはない。むしろ憧れる位だが、私には芸術の才能はない。しかし同じデザイナーでも、アーティスト系と職人系は似て非なるものであり、私も含め世間のデザイナーと自称している人のほとんどは、職人系に属する。実のところ注文する客は、デザイナーのオリジナリティなど求めていない。実績を見て注文してくる客はいるが、それはデザイナーのオリジナリティを求めているのではなく、テイストを求めている。言葉では微妙だが違いは大きく「実績にWEBなどに載せていた様な雰囲気のデザインをして欲しい」だけであり、デザイナーの自己主張を表すものなら何でもOKではない。プロのデザイナーに発注する側の人は、デザインに対して素人ではあるが、頭の中では大まかなイメージが出来上がっていることが多い。その言葉にできないが大まかなイメージを具体的に視覚表現するのが、プロの職人デザイナーだ。

これは具体的に注文主から直接言われたことが何度かある。「米本さんは、文句を言わず、指示通りやってくれるから仕事がしやすい」と。もちろん先述したように、助言や提案をした上での話である。他のデザイナーがどのようなやり取りをしているのか分からないが、どうやら注文主の意見を聞かない、自己主張が強いデザイナーが多いようなのだ。

どのようなツイートに反応したのか忘れたが、以前上のようなツイートをした。どうやら非アーティスト系デザイナーが客の言うことを聞けず、かと言って自分からも折れる事ができず、ジレンマに陥っているようだった。どうして自分の好きなデザインが出来ないのかと。何度もそんなことが続けば精神的に擦り減っていくだろう。アーティスト系デザイナーになるか、注文主の指摘を受け入れるか、デザイナーを辞めるしかないと思う。
そしてこの中にもあるが、あの誰もが認める超一流の横尾忠則さんでさえ、客に修正指示を出されたら文句も言わずに修正するらしいのだ。何かのインタビューで言っていて驚いたことがある。そのインタビュー記事もツイートしたはずなのだが見つからなかった。

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デザイナーになりたい人たちへ

アーティスト系と職人系デザイナーに上下はないと思っているが、もしあなたが自己表現の手段として、アーティスト系デザイナーを目指しているのなら、デザイン事務所に入りテクニカルな事を働きながら身につけるのも良いが、現代では上手にSNSなどを使い、ひたすら自分のオリジナル「作品」を目立たせる事に注力するべきだろう。売れるには才能があっても、見つけてもれえるかが鍵になるだろう。

職人系デザイナーになりたければ、先ずはデザイン事務所に入り、テクニカルな部分(印刷の知識やコーディングの方法)を身につける。そして素人である客の中に既にあるイメージを引き出し、視覚的に具現化する方法を身につけよう。そこに作家性はいらない。客の望むものを作り、プロとして提案や助言を行えるようになればいい。この場合の客は、注文主という場合もあれば、その先に居るデザインした商品を使用したり、鑑賞したりする利用者という意味も含まれる。
SNSを見ると独学でデザインを学び、仕事を取っていると喧伝している人が多く見受けられる。そういう人は華麗な実績を披露しているが、話半分と思っておいた方が良いだろう。私が勧めるのは、半年間や1年間など短期でも良いので、先輩がいるデザイン事務所や制作会社にアルバイトでも良いので入ること。机上だけではなく実践で仕事を身につける方が、給料ももらえるし、はるかに効率的である。客とのコミュニケーションのとり方や、交渉の仕方なども身につけることができる。

最後に2020年に亡くなった作曲家・筒美京平の印象的だった言葉を載せておく。
自分の好きなものを作るんじゃなくて、ヒット曲を作る
職人系デザイナーにも共通する、まさに職人魂である。

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