iPhoneやiPadアプリを作る場合、一般的にはSwift、少し前ならObjective-Cというプログラミング言語を使い開発をしていた。Macを使って。アプリを作る前にそれらプログラミング言語を習得しなければならず、プログラミング未経験者にとっては敷居が高かった。
それが現在、SwiftはSwiftでもSwift Playgroundsという子供がプログラミング学習をするためのアプリがヴァージョンアップし本格的なiPhone、iPadアプリを作ることが出来るようになった。しかもiPad上で作ることができる。
今回まだ類書が少ないそれらを解説した Swift PlaygroundではじめるiPhoneアプリ開発入門 の装丁を担当したので、その制作実績と過程を紹介する。
打合せ
参考資料として企画書をもらった。
カバー制作の条件は
- 色数:プロセス4色
- 仕様:オビ付き
- 寸法:182✕230mm(B5変形)
上記以外、デザインに関するリクエストはなし。
調査
Swiftの概要は知っているが、Swift Playgroundsについては知らないので企画書を読む。
まずAppleのSwift Playgrounds公式サイトを見る。
対象は子供~学生のようで、WEBサイトデザインも軽快で、カラフルな画像を多く敷居の低さをアピールしている。ただし今回の書籍は、その段階から一つ上の内容なので、あまり子供ぽく、柔らかい、ポップなイメージは出さないようにすることが必要と考えた。
Swiftのアイコンはオレンジの地に白抜きのツバメ。これはSwift Playgroundsも同じ。
また類書のデザインを一通り見て参考にする。今回類書は少ない、どころかない。
サムネイル
思い付いたイメージや言葉をどんどん描いてゆく。
調査して分かった、キーカラーのオレンジ色、ツバメのアイコン、iPhoneやiPadアプリの開発なのでそれら端末の画像やイラストを配置することも考える。またPlaygrounds=遊園地から遊園地そのものの画像やさらにイメージを膨らませ、使えそうな観覧車やその他の遊具を使うことも考える。
ラフデザイン
サムネイルを元にラフデザインの制作に移る。
ラフデザインとして、完成度6~7割くらいのデザインを7案制作した。ラフとして7案は作り過ぎだろう。本当は線画のようなものを提示して、この段階で発注者には先入観を持たれないようにしたいのだが、以前「色がないと方向性が分からない」と言われたこともあり、現在はこの程度の完成度でラフを制作し提出している。通常は3案程度だが今回イメージが拡散してしまい頭の中でまとまらず多く制作したが、本来はデザイナー側で3案程度にしぼり依頼者に提示する方が好ましい。選択するのもデザイナーの仕事だ。
いつも通り制作したらプリントアウトし壁に貼る。壁に貼ることでデザインを寝かせアイデアを熟成させる。
ラフデザインをブラッシュアップ
7つのラフデザイン案のうち2案が選ばれ、その折衷デザイン案を求められた。
2つの案を組み合わせ、バリエーションを6案作った。
さらにここで、現在下に位置しているツバメのシルエットがオビで隠れてしまうために、上に持ってくる案を作るように指示があった。
ツバメの上下、オビの有無、さらにデザインのバリエーションを制作し、より完成に近い状態で選択をしやすいようにした。
デザイン決定
デザインが決定したので、細かい部分を調整してメインとなる表1カバーデザインが完成。
書籍タイトルのフォントは入門書にふさわしいように、近年流行りの丸ゴシック系を袋文字に加工して使用。文字詰めも入門書らしく甘くしている。詰め過ぎるとどうしても固くなってしまう。
タイトルの中でも重要な順にフォントの大きさも調整。
Swift Playground>iPhoneアプリ開発入門>ではじめる>著者名 の順。
背景に使用した画像は、以前作成したオリジナルのグラデーションを加工して使用。この背景は出版社の方に好評だった。
大扉の制作
メインのデザインであるカバー・デザインが決まったら、次は印刷する順に大扉の制作に入る。
スミ1色なので、カバー・デザインのリサイズ以外特に修正はしなかった。
本体表紙の制作
次は本体表紙の制作。
本体の束幅(背表紙の幅)を事前に聴いておいたので、それに合わせ本体表紙を作る。
カバー・デザインのバリエーションを作る際に比較対象とした、ツバメが書籍タイトルの後ろに位置するヴァージョンで制作してみた。下半分が寂しいのでグラデーションを入れた。
本体表紙は余程外れたデザインでなければ修正指示はない。
これは印刷入稿用データなのでスミ1色だが、実際は左上にあるように色はDIC641(紺色)で指定。
カバー・デザイン・データの制作
カバーのデザイン・データを制作する際に、オビとのバランスは非常に重要になるため、カバーの上からレイヤーで仮の状態でオビのデザインを載せる(上の画像でオビは仮デザインではなく完成している)。
カバーの束幅に気を付けながらカバーの印刷入稿用データを制作。
一般的にカバーの束幅=オビの束幅>本体表紙の束幅である。
オビの上からツバメのシルエットがよく見えるように、オビの背景は紺色ベタとした。ツバメのシルエットの中身にはグラデーションを敷く。
メインキャッチコピーのうちMacとiPadの単語は重要なので、目を引くように文字に色を付け、さらにウエイトを大きくした。オビは書店に並んだ際に、多くの書籍の中でも目を引くように内容をアピールする重要な部分である。オンライン書店でも、最近は帯付きでの書影が掲載されることが多くなった。小さな書影でもメイン・キャッチ・コピーは読めるような大きさにしたい。
オビ表4には、iPadの画像をトレースしてその中に目次を配置した。
オビの束部分の著者名下が空いてしまいバランスが良くないので、ツバメのアイコンを配置。ついでにオビ表2、3に異なる大きさのツバメ・アイコンを配置。何となく左から下ってゆくツバメを表す。
そして今回は全体的に色を鮮やかに表現したいので、表面加工はカバー、オビ共に艶ありのグロスPPとした。
全て完成して編集者のチェックを受けてから、データを送信。
お疲れ様でした。
見本誌到着
毎度ながら見本誌が届くまで想定通りに刷り上がったか心配なのがデザイナーだ。
今回も想定通りの仕上がりとなり安心した。