2021年に「Affinityシリーズは、プロのツールとして使えるのか」という以下の記事を書いたところ、多くの人に読んでいただいている。
SNSでもAffinityシリーズに好意的な投稿は多いのだが、何故か欠点がほとんど言及されていない。Affinityシリーズは、Adobeの代替えアプリになるらしい。それらを鵜呑みにして、ろくに試用しないままAffinityシリーズ全てを購入したわけだが、予想以上に実務には使えなかった。詳しくは上の記事を読んでほしいのだが、バージョン1(以下ver.1)はプロが使用するツールとしては及第点のレベルには達していなかった。
そして2022年ついに初のメジャーアップデート版であるver.2が発表された。果たして以前指摘した機能は改善されているのだろうか。私以外にこんな事を書く人もいないだろうと、懲りずに今回もプロのツールとして使えるのか最新版Ver.2を試してみた。
ver.1の欠点は解消されたのか
ver.1ではプロがデザイン制作で使う点を重視し「これがないと仕事ができない」という点をいくつか挙げた。それがver.2では解消されたのかを検証してみる。アプリの使用環境は前回と同様の自作デスクトップ・マシンで、OSはWindows 11 Pro。Affinityシリーズはすべてver.2.0.3の試用版。ちなみに試用版は1ヶ月の試用期限があるだけで、正規版と機能は同じ。
日本語縦組み
なにより先に確認したのが縦組み組版は可能になったのか。
残念ながらver.2も縦組みには対応していない。
Photo、Designer、Publisherのエンジンは同一なので3つ共に非対応。日本人向けにデザイン制作をする上で、縦組みに対応していないことは致命的であり、プロのツールとしては使えない。
2014年にAffinity ver.1が発表され、2022年にver.2を発表。8年間何をやっていたのだSerif Europeは。縦組みが使えるようになれば、不便を少し我慢しても使うつもりだったが、この段階でその考えもなくなった。日本のユーザーは軽視されているということだ。
そういう訳でver.2の購入は止めたので、これ以上長々欠点を書いても愛用者から非難を浴びるだけなので止めようと思ったが、購入しようか迷っているプロ・デザイナーの判断材料になるよう少し続ける。
日本語組版機能
変更なし。よって相変わらず日本語組版機能は弱い。日本語組版に興味がない人には、無視してよい微細な問題だろうが、プロのデザイナーであればWEBであれ、紙媒体であれ文字組みには細心の注意を払わなければならない。
Affinity Designerのパス変形フィルター
搭載されず。ここまで来るとこれはAffinityの設計思想なのかもしれないが、変形オブジェクト、ロゴやアイコン制作には不便。Illustratorで作業するのと比べ、制作時間が大幅に増える。
二重トンボ(トリムマーク)
これも搭載されず。従来と同じ1本の西洋式トンボのみ。西洋式トンボは、当然世界でも最高精度を誇る日本の印刷会社には敬遠される。
フォントをアウトライン(カーブ)に変換する時の挙動が不明
Affinityの“カーブに変換”は、Illustratorでいう“アウトラインに変換”と同じ。TIFF画像を貼り、カーブに変換したらやはり付けた色が消えデフォルトの黒に戻ってしまった。これも変更なし。最近はTIFF画像を扱う機会が少ないとは言え、2値のTIFF画像に色が付けられないとなると不便である。
フォントをアウトライン(カーブ)に変換すると太くなる
これは実際に印刷に出してみないと確認できないので省略。
入稿前のデータチェックができない
印刷入稿する前に必ずチェックしなければならない、Illustratorにおける“ドキュメント情報”に近い機能が、Affinity Designerの“パッケージとして保存”。これも変更なし。
その他気が付いた点
ガイド作成、フォントの単位に級(Q)と歯(H)はver.2でもなかった。
作業を次作業に引き継がないというのもAffinityシリーズ共通の欠点。これはver.1の時から。例えば画像のトリミングを1:1の正方形で行い、次に別画像を開きトリミングしようとすると、この1:1が記憶されておらずデフォルト値に戻っているので、また1:1に設定しないといけない。これは作業効率に大きく影響する。
ちなみにver.1で作ったドキュメントはver.2で編集できる後方互換はあるが、前方互換はない。
結局、変更点はなし
私が指摘した点は何も改善されていなかった。機能に対する要望もクレームもなかったのだろう。ver.1で日本のユーザーは満足しているのかもしれない。
総じて日本語に関する部分がまったく追加や変更がされていない。では日本以外では使えるのかと言えば、パス変形フィルターがないなど日本以外で制作しているデザイナーにとっても、プロ仕様としては厳しいのではないだろうか。
Affinity愛用者は日本語機能追加をメーカーに提言しないと
縦組みに代表される日本語機能さえ搭載されれば、少なくとも日本国内での利用者は増える。前回も書いたが、これは日本のAffinity愛用者が積極的にメーカーに提言するしかない。プロ仕様のグラフィック・アプリケーション市場は、DTPの歴史が始まって以来ほぼAdobeの一人勝ちだ。Affinityのユーザーが増えれば、Adobeも意識せざるを得なくなるだろう。そこに公正な競争が働く。
ver.1からver.2のアップグレードでは、プロのグラフィック・アプリケーションとしての基本的な機能に改善はなく、見た目の派手な部分のみアップグレードをしたように感じるのがとても残念だ。Affinityシリーズのターゲットが、プロなのか素人なのかそこも曖昧な気がする。残念ながらこれではせいぜいノン・デザイナーである社員が社内報を制作するレベルのアプリだ。
ここまで読んで「お前は何もわかっておらん!」というお怒りの貴兄・貴女は購入してみて実際に仕事に使用してみてはいかがだろうか。