「CH55xでどうでしょう」のブックデザインを担当した。今回はカバーの装丁だけでなく、本文のフォーマット設計から本文のDTP組版まで、まるごと1冊のデザインを担当した。その工程と共に制作実績を紹介する。
本文フォーマット設計
今回デザインした本は、元々著者が電子書籍で販売したものに加筆・修正したものである。プログラミングの本ではなく、電子工作の本であり、ページ数も100ページ強と薄め。元本を読む限り、「章」「節」「項」などの章立てが細かくあるので、あまりゴテゴテと装飾された章立てや見出しにすると、読みにくくなるおそれがあるためシンプルな本文デザインにした。もっともIT系のマニュアル本は装飾過剰なものが多いが、個人的に好みではないというのも理由の一つ。本文フォントはゴシック体と明朝体の両方を提案するのだが、多くは明朝体が好みであるようだ。判型は148×100ミリ。
本文フォーマット・デザインは、10ページほどの第1章をサンプルとして組み、3案提出してそのうちの1案で決定した。
カバーデザイン
本文フォーマットが出来上がり、DTP組版作業も進みほとんど終わったところで、他の制作が優先となり3ヶ月ほどこの本の作業は停止した。
作業再開後、カバーにはマンガ「ハルロック」の作者・西餅さんの描き下ろしイラストを使うことになった。そこで私がディレクションを行うことになり、イラストの方向性を決めるべく、サムネイルを4種提出した。その中で編集者に選ばれたのは80年代風デザイン+電脳少女風(古い?)のイラストだった。その案でイラストの発注をお願いした。
カバーラフデザイン
通常この前にサムネイル作成が入るのだが、前段階でイラストを発注する際にサムネイルを描いていたので今回は省略。完成したイラストが届き、配置してさらにラフデザインを3案作成する。私のサムネイルが悪かったのか電脳少女風ではなかったので、方向性も修正しながらラフデザインを3案作成。その中から1案を選んでもらう。
本文大扉用データ
カバーデザインを制作すると同時にほぼ終わっていた本文組版を校了(校正が完了すること)。その後は印刷所へ入稿する順に制作することになる。まず一番に作るのは本文大扉。カバーデザインそのままでも良かったが、イラストを省き署名をメインにした。そのままでは面白くないので、色を変え電気記号も省く。
本体表紙用データ
こちらは本文大扉を元に二値化(モノクロ)。ポップなイメージにしたかったので普段この手の書籍ではあまり使わないDIC49(ピンク色)を選択。
カバーとは厚さが異なるので気をつけながら印刷入稿用データを作る。実際の入稿用データはもちろん白黒である。
カバーとオビ用データ
いつも通りカバーとオビはレイヤーを分けて同時に制作する。それぞれの位置関係を確認しながら作るためだ。イラストは当初想定していた“電脳少女”風ではないため、イラストをなるべくいじらず電脳風に、シアンとマゼンタ2色でイラストをノイズっぽく加工する。映りの悪いテレビのような感じ。
- イラストをグレースケール化
- ぼかし(移動)で横にぶれたようにする
- モノクロ2階調化
- 線数を下げ、網点形状をラインで実行
- ダブルトーン(シアン)で色を付ける
- レイヤーを複製して異なる色(マゼンタ)を付け横にずらす
以上数値を変えながら適切なイメージになるまで繰り返し試す。これをイラストのバックに配置し左右に少しづつずらす。
カバー表4には、「ハルロック」の広告制作(後述)で使用したイラストの中から電子部品を切り抜き、影を付け使用した。またカバーそでには、上で作ったイラストの影を表1と4に分割して配置した。カバーの表面加工はマットPP。
オビ用データ
オビひょうのキャッチコピーは太い線で囲んだ立方体に載せ、票の目次は囲み罫を太くし、入門書ぽいデザインとした。その後プリントアウトし何度も確認しながらデータを作成する。そして編集者の確認を経て印刷所へ入稿した。
「ハルロック」告知広告制作
今回イラストの作者・西餅さんの「ハルロック」の告知広告を作ることになった。順番としてはカバーデザイン制作の前だった。こちらはカバーデザインよりも派手なイメージで制作。こちらも80年代風で淡々とした本文をめくってゆくと、突然ド派手なページが現れるので必ず気が付くだろう。
見本誌到着
特に問題なく想定通りの仕上がり。意外と薄い。実際に本になったものを見ると、何故か「ストップひばりくん」をイメージしてしまった。もちろんパクったとか参考にしたとかは全く無いのだが、少し派手にし過ぎたかもしれない。またカバーと本文のデザイン・テイストが大きく異なるがこれは時間差があったのと、当初想定していなかったイラストが入ったためでこれは仕方ないだろう。
80年代風デザインについて
今回いつかはやってみたかった80年代風デザインを大胆に取り入れた。特徴としては、単純な幾何学オブジェクトを多用する。その幾何学模様の地紋は単純なパターンの繰り返し。タイトルなどの目立つ文字の下に三角、丸、四角などの単純なオブジェクトを置きタイトルを目立たせる。ビビッド色とパステル色を多用するが、渋めの色は使わない。均一の線幅。これをDTPで制作するには有利。80年代まだデザインの仕事に就いてはいなかったが、生活の中に普通に存在した。デザインの仕事をアルバイトで初めたころはまだ80年代風デザインを多用する雰囲気はあった。「空間があったらとりあえず何かオブジェクトで埋めておけ」と先輩に教えられた。
現在レコード・ブームが再燃するように、過去のデザインも再燃する。しかし過去のデザインをそのままやってはダメなのである。当時を体験したデザイナーが過去のデザインをそのままやるのと、体験をせず面白いと思い当時のデザインを取り入れた若いデザイナーとでは、若いデザイナーの方が優秀なものを作る。やはり過去のデザイン再利用でも、どこかに現代的な要素が入らないと単に古臭くなるだけだからだ。