ドラマ「デザイナー渋井直人の休日」をデザイナー米本哲が観て

2019年の1月~4月期にテレビ東京で深夜放送されていたドラマ「デザイナー渋井直人の休日」を皆さんは観ていたでしょうか。放送中にネットの記事に出演者のインタビューが掲載されていたり、主演の光石研さんが俳優生活40年にして連続ドラマ単独初主演というのも話題になりました。なんと言っても「デザイナー」とタイトルに付いているので、ドラマ好きでデザイナーの私は気になっていました。しかし気が付いた時には既に第3話。途中から観ることが嫌いなのであきらめました。ところが約1年後CSスカパーで全話の再放送があったので録画して観ました。

52歳の少し有名な独身デザイナー渋井直人。主な仕事は書籍の装丁や雑誌のディレクションとデザイン。所謂エディトリアル・デザイナー(出版系のデザイナー)。時々音楽CDのジャケット・デザインも手掛けています。この設定がなかなかいい感じで、年齢を考えるとデザイナーと言ってもWEB系でなく、アナログ系のところが結構リアリティがあります。光石研さんの優しいけれど非モテで優柔不断な演技もとてもはまっていました。 アシスタント・杉浦を演じる岡山天音さんの当初やる気の感じられない気の抜けた感じが、徐々に成長してゆく姿も良かったですね。

休日はアナログ盤を引っ張り出して自宅兼事務所でDJを楽しんだり、凝った料理を作ったり、オシャレな店の探索をしたり。エディトリアル・デザインだったり音楽CDのジャケット・デザインをしたり仕事面で私と重なる部分が多くあります。オシャレな生活などしていないので、プライベート部分は大分違いますが…。

当初はどちらかと言うと仕事面よりもプライベート、もっと言うと「非モテ」な部分がクローズアップされ女に振られ続けます。しかも好意を持たれていると勘違い。フーテンの寅さんのように。そしてこだわりは強いが、気弱な「結婚できない男」の主人公・桑野のような印象。しかし観ていくうちに同業者として「これあるなあ」と思わせる部分が多くなります。原作はデザイナーではないようなので良く取材していると思います。

そこでドラマと実際の現場の違いなどを現役デザイナーとして経験を踏まえて書けば、これから雑誌や書籍の装丁、ブックデザインなどのエディトリアル・デザインの仕事を目指す人やそれ以外にもデザインを仕事にする人の参考になるのではないかと思ったわけです。

ドラマは毎回冒頭、渋井自身のモノローグで始まります。例えば、
「まわりは僕をこだわりの人と言う。否定する気もなければ、肯定する気もない。これが自分の生き方というだけのこと。簡単には変えられないというだけの事…」
またオープニングもフィルムっぽい粒子の粗い感じでレコード屋に行ったり、ソフトクリームを食べたり…
かなり気取った感じで、渋井の事を皮肉っているようにも感じられ笑えます。

ドラマの内容はデザイナーとしての仕事事情と、52歳独身の非モテ男の恋愛事情が並行して進行します。
この記事の趣旨と違いますので、今回“恋愛”部分は省きました。

第一話 渋井直人の新年

新年早々、大御所イラストレーター・真田シンイチ(岩松了)作品集の装丁仕事の打ち合わせ。
新人アシスタント・杉浦ヒロシ(岡山天音)、編集者・高田(夏帆)と共に真田の自宅で会う約束をする。真田の自宅で打ち合わせが始まる。しかし渋井が挨拶をしても真田は無視。かなり気難しいイラストレーターのようだ。渋井は真田の事を学生時代から尊敬していてファンであることを熱く話すがスルーされる。


渋井は打合わせをする前に勢い余って年末・年始を使い装丁ラフ2案を作り真田にプレゼンするが、どちらも否定される。このラフ案に使われているのは真田の過去の作品を適当に配置した方向性の異なる2案。しかし真田は表紙に使いたいと新たなイラストを描き起こしたものを提示。これが微妙に違う2案でほとんど同じ。真田は渋井にどちらがいいか 禅問答のように問うが、真田の無言の重圧に押しつぶされ渋井が答えられずにいたら、真田に「それでもデザイナーか!」と叱咤されへこむ。

今どきイラストレーターに限らずですがこんな難しい大御所はいないでしょう。少なくとも私が会った著者だとかミュージシャンにはいませんでした。まあドラマですから。しかし、いくらファンでも打ち合わせ前にラフ段階だとしてもデザイン案を制作するのは危険ですね。時間があり採用されない事を前提で作るのは勝手ですが。私の場合、依頼が来て、打ち合わせ当日までに著者や本の内容を事前に調べ、どんなデザインにするのか頭の中で考えますが、目に見えるような形にはしません。実際に話しを聴くと著者やミュージシャンの考えている方向性と全く違うことが多いのが理由です。もちろん主役は著者やミュージシャンなのであってデザイナーは彼らを引き立てるのが役目なのです。デザイナーの作品集ではないのですから、デザイナーが主張してはいけません。特に私のような職人デザイナーは。

第二話 渋井直人の下心

料理が趣味の渋井は、ちょっとした切っ掛けで仕事関係者を自宅に呼び料理を振る舞うことになるが、結局来るのは女性編集者・高田一人になってしまった。アシスタント・杉浦に「サイン出まくってました」と言われ期待は高まりその気になるが、高田にドタキャンされてしまう。

この回は特にデザイナーらしいエピソードはありませんでした。非モテのエピソードとしては面白かったのですが。

第三話 渋井直人の炎上

ミュージシャン・京川夢子(池田エライザ)のニューアルバムのアートディレクションとデザインを渋井が手掛けた。アシスタント・杉浦にそのデザインがパクリ疑惑によりネットで炎上していると知らされる。しかし渋井はBob Dylanのポスターからパクったと杉浦に告白する。正確に言うとパクリではなくオマージュだと説明するが…見比べるとほとんど同じだった。

杉浦にデザインの経緯を説明した。ラフ案を数案制作し京川と打ち合わせをするが、どの案も気に入ってもらえない。京川のニューアルバムは“アメリカン・ポップカルチャーによるLOVEとリスペクトがコンセプト ” だと言う。渋井が出したデザイン案はまだリスペクトが勝っている。「もっとまっすぐなLOVEをくれ」と再度のデザイン案出しを促される。それはオマージュだと。結局いろいろ試したが元ネタに一番近いデザインになってしまった。

この一連の流れを聴いて杉浦は「デザイナーは渋井さんなのだから渋井さんの好きなようにやればよかったのでは」と話す。しかし渋井はアーティストとデザイナーは対等であり、アーティストのイマジネーションを形にしてその世界観をより魅力的に観せてあげるのがデザイナーの使命だと諭す。しかし杉浦に「その使命を果たした結果炎上しているのでは」と突っ込まれ反論できないのであった。

「アーティストとデザイナーは対等な関係」なのでしょうか。少なくとも私の場合は違います。そのデザイナーの知名度によると思います。音楽のジャケット・アートワークで有名なRoger DeanやHipgnosisレベルだと対等どころかデザイナーの方が立場は上でしょう。しかし私のような無名レベルだとほぼアーティストの注文をそのままストレートに表現します。アーティストは私に作家性など求めていないのですから。

例えばアーティストに顔を大きく出してくれと注文を受け、素材となるアー写(アーティスト写真)を提供してもらえば、ほぼ決まったようなものです。この場合、まず顔を出さないデザイン案はナシです。また顔を切り刻んでコラージュなどをする過激な表現というのも出来ません。そうなると顔を大きく配置し、あとはアーティスト名、タイトル、若干の顔や背景の画像処理くらいになります。

ドラマの中の渋井直人は雑誌にインタビューされるような少し有名なデザイナーですから微妙な立場ですね。多少は渋井直人らしい表現をアーティストから求められるでしょう。ドラマでは詳しく扱っていませんでしたが、何案かラフ案を出して方向性が決まり、さらに詰めて行き、最終的にBob Dylanのポスターみたいになったというのはかなりあり得る話ですね。このような場合デザイナーが責められる訳ですが、まあいろいろ制作過程には事情があります。をれをこの回ではうまく表現していると思いました。「そうなんだよ、これなんだよ!」と。

炎上に関しては私レベルでは批判自体ないでしょう。もちろん評価もされませんが。批判があってこそ評価がされているということなのです。

第四話 渋井直人の名声

近所で見つけたこじんまりとした居酒屋。女将(山口紗弥加)が一人で仕切っている。そこで一人夜飲んでいると事務所で作業中の杉浦から電話。明日までに雑誌のデザインを全ページ直してくれとの依頼が入ったとの連絡。何度も直して直して、そしてさらに日曜日の深夜の徹夜。32ページのデザインの報酬は20万円。そこからアシスタント・杉浦に払う給料、経費、源泉を引くといくらになるのか。

そこに馴染みの客で「日本No.1デザイナー」ルカリ可児(村上淳)が入ってくる。見た目ちゃらんぽらんでいい加減だがオリンピック関連の仕事もしている。渋井はルカリをもちろん知っているがいい印象はない。自分とそんなに才能の差はないとさえ思っている。
ところがルカリは渋井の事を知っていた。雑誌デザインの事を話していると女将に「私達は雑誌を読む時にデザインは見ていない。内容を見ているだけ。」と言われ、ルカリはそれに反論しデザインやデザイナーについて熱く語りだす。その話を聴いていた渋井は意気投合してデザインを語り合いルカリとハグするまで盛り上がった。
居酒屋からの帰り際、同じ出版社からの仕事でルカニは報酬として「すごくいい車をもらった」と聞き落ち込む。「人は人、自分は自分」と自分に言い聞かせながら…。

単行本やムック本(雑誌と単行本との中間的な本。基本単発だがシリーズ化することもある)などと違い、定期的に刊行される月刊誌、週刊誌の場合、原稿や画像・図などの素材が揃ってデザイナーに届いてから最終的にデータを入稿するまでに、非常に時間が限られています。そのため雑誌のデザインに対する直しは基本的に少ないのが一般的です。余程雑誌の雰囲気と違ったりする場合は別ですが。通常は編集者がサムネールと呼ばれる、手書きのWEBデザインでいうとワイヤーフレームのようなものを素材と一緒に送ってきたり、またはIllustratorやInDesignが出来る編集者だとそれらを使い、ラフな感じで組んでくる編集者もいます。これはデザイナーにとって助かります。なので雑誌デザインの修正とか直しというのはほぼ文字直しですね。それかもっとキャッチを派手にとか画像のトリミングを直したりだとか。
昼に素材が入ってきて翌朝までにデータ入稿とか普通にあります。そのため徹夜になるのです。

女将が言った「一般人はデザインを見ていない」というのは正直な意見でしょう。デザインがいいとか悪いとか言うのはデザイナーや編集者ですね。しかし見ていないと言っても無意識に「オシャレな雑誌」だとか「読みやすい雑誌」だとか感じている訳です。もちろん売上にも影響します。それがデザイナーの仕事なんですね。

渋井が愚痴をもらした報酬額「32ページで20万円」(税込か否かは不明)。ページ単価6,250円。これは割とリアルな金額だと思いました。少し映ったモニターからスタイリッシュな車雑誌だと言うことが事が分かります。ちなみに単行本の装丁は有名デザイナーでも無名デザイナーでも報酬額が変わりません。イラストを使ったり画像を購入したりの経費は別として。しかし雑誌の報酬額は変わります。女性ファッション誌なんかは高いほうですね。また有名デザイナーが雑誌全体のアートディレクションを担当するとかなりの額になります。しかし一昔前と比べると全体的に相当安くなっていると思われます。雑誌自体が売れてませんからね。

第五話 渋井直人の渋谷

渋井のInstagramフォロワーだったmiyukibeef(内田理央)とリアルで会うことになった。下心があるオシャレだと思われたい渋井は、オシャレな店を案内しようとするがどこも満員。その後非モテ臭が炸裂し、別れた後ついにインスタをブロックされてしまう。

デザイン業務に関するエピソードは特にありませんでした。

第六話 渋井直人の優しさ

フリーマーケットのような「手づくり市」。その場所の隅に誰も客がいない、自作の陶器を売る、自称陶芸家で民族音楽好きな穴熊茂雄(大森南朋)・道子(平岩紙)夫婦の作品に渋井は惹かれる。そして皿を1枚買おうと値段を聴くと「14万円です!」。優しく気の弱い渋井は引くに引けなくなり、代わりに素人が書いたような妻制作のポストカードを全部購入してしまった。

今回も特にデザイン制作に関すエピソードはありませんでした。

第七話 渋井直人のダンス

朝から機嫌の良い渋井。その原因は、今夏創刊されるライフスタイル誌“エリーゼ”のアートディレクションを渋井直人デザイン事務所が担当することに決定したからだった。
新雑誌創刊のためには渋井とアシスタント・直井の2人だけではとうてい作業をさばききれない。そこでアシスタント新たに“ENDEED”で若干名募集する事になった。

職種カテゴリー:クリエイティブ系
職種名:グラフィックデザイナー
応募資格:InDesign、Photoshop、Illustrator 経験者
募集要項:近日、新雑誌創刊号立ち上げのため、アシスタントを若干名募集します。雑誌デザイン経験者優先で30代までなら男女問いません。

創刊雑誌のアートディレクション(AD)を担当すると言うことは、その雑誌のコンセプトなどに沿いデザイン全体の方向性を考える作業です。雑誌名のロゴを一緒に制作する事もあります。全体の方向性ということは表紙はもちろん、独立した各ページの記事を一つ一つデザインします。

一冊まるごと一つのデザイン事務所が担当する事もありますが、一般的には、編集部から雑誌の各記事ごとに外注に任せる事もあります。ドラマで出てきたライフスタイル誌ともなれば雑誌1冊の中には様々な記事があり、その記事ごとにデザインを考えるので小さなデザイン事務所では人員が足りずとても作業をするのは無理でしょう。

一つの記事が4ページだとして、その記事のタイトルロゴを考えたり、タイトル部分のヘッダに入るタイトル、キャッチ、サブキャッチ、リード分、また本文の下には地紋を入れるのか入れないのかなど、たった1記事でも実作業としてデザインする部分はかなり多いのです。

ただし本文の文字の級数(大きさ)や行間など雑誌全体に共通する部分は、統一感を出すためADが決めます。そのためのテンプレート作りは果てしない作業となります。そして当然編集者とのやりとりも数十回に及ぶことなど普通です。

応募資格に“InDesign、Photoshop、Illustrator”とありますが、雑誌デザインをするのにこのいわゆるDTP三種の神器は出来て当然ですね。InDesign登場前はQuarkXPressでした。書籍が売れていない今InDesignができる人は少ないですが、これがないと本は作れません。Photoshop、IllustratorはWEB制作でも使うので使える人は多いのです。

ちなみにまだ雑誌が売れていた頃、一般的には有名ではなくマニアックで購読者がある程度限られるが、そのジャンルでは一番売れている広告込300ページ程の月刊誌で出版社(版元)の下請け編集プロダクションからデザイン依頼が来た場合、報酬は1冊300万円位だったと思います。上述したように当然一人で全ての作業は出来ないので、外注に出したりしますので300万円が全て一人に入るわけではありません。

第八話 渋井直人の未来

行きつけのブックカフェ「ピータードッグ」店主が大量の蔵書買い付けに向かうと言う。そこは以前良く仕事を一緒にしたカメラマン・得部(杉本哲太)だったので渋井も同行する。
こだわりの強いカメラマンである得部はカメラマンを辞めると言う。フィルムのみなので需要が無いのだ。渋井はデジタルを勧めるが今更デジタルには変えられない。温め直したスープは旨くないと…。
また雑誌一筋、ブツ撮り(商品や食品などモノの撮影の事)などなんでも屋だった自分は需要がない。アート写真で評価されていればまた別だったのかもしれない。
それでもだましだまし何とかやってきたが、どこの出版社も予算削減で自然とお払い箱になってしまった。
そして帰路、渋井は思う「僕みたいなフリーランスはいつまで仕事があるかわからない。50を過ぎてその事がよりリアルになってきた。仕事を失った時、僕に最後に残るものはなんだろう。僕は独りか…。
そんな寂しい夜に初めて寄った飲み屋で三浦カモメ(黒木華)に出会った。

まさにフィルムからデジタルに変わる現場に私もいたわけですが、カメラマンにとってはデザイナーが写植と版下からDTPに移行したくらい大きな出来事だったでしょう。
カメラマンとしてはその撮影方法や表現方法の違いなどもありますし、何よりも撮影から納品までの過程による金を取りにくくなったのも大きいと思います。
フィルムの時代は、

事前にテストでポラロイド(インスタント写真)撮影でアタリを付け
→本番撮影
→現像
→紙焼き

という一連作業工程がありましたが、デジタルになると

→本番撮影
→選択してデータ納品

と、かなり作業工程が簡略化されました。
フィルムの時代は“フィルム代+フィルム現像代+印画紙代+印画紙現像代 ” が材料費として請求できたものがデジタルになり全てなくなりました。
デザイナーとして、フィルム時代はデザイナーは皆フィルムをスキャンできるスキャナーを持ち、一枚一枚スキャンするという作業にデザインをする前準備として忙殺されていました。私も車の雑誌を月に30ページ担当していた頃は編集者からフィルムをもらい月に300枚位スキャンしていました。その作業だけで3日はつぶれました。
そう考えるとデジカメになった事で写真はデータで送られて、それを加工するだけですから大分楽になりました。フィルムを作業後返却しなければならないのも面倒でしたね。

フィルムだけのカメラマンは今いないと思います。ただフィルムからデジタルの移行期に急激に報酬が減り廃業した人は何人もいました。カメラマンの報酬は詳しく知りませんがデジタルになってかなり安くなったのだと想像します。それは手作業からDTPに移行したデザイナーも同じです。

最後、渋井が語った「50過ぎたら…」というのはやはりリアルに感じますね。

第九話 渋井直人の彼女

三浦カモメと付き合うことになり、精神的にも高揚し仕事も捗る。
先日のアシスタント募集で応募してきた24歳の女性が面接に来た。実際に会ってみたら64歳の男性。それはエディトリアル・デザイン界では超大御所のモード内田(ベンガル)だったのだ。しかしInDesignどころかMacも使えない。Facebookに上げてある作品は知り合いに“クリック”してもらったとの事。出版業界は大御所と言えども不景気で仕事がないのだ。大事な新創刊雑誌の仕事だし断ろうと思ったが、泣きつかれ、優しい渋井はついつい雇ってしまう。
モード内田にMacを一から教える事になるが、時々癇癪を起こし、Macを揺さぶり叩く。自虐的になり渋井に皮肉を言う。当然、作業は全然進まない。気がつくと渋井の後頭部に十円ハゲが出来ていた。

以前DTPが普及し始めた頃、エディトリアル・デザイン界では大御所先生の仕事を手伝った事があります。1970年代から仕事をされている方で、私もブックデザインの素晴らしさで、そのデザイナーのデザインした本を何冊か買いました。手作業でデザイン制作をされていたので、DTPのオペレーティングは事務所の社員が行っていました。現在でも現役ですが今でも同じ工程なのかは分かりません。

現在ではデザイナーと言えばDTP作業ができるのは当たり前ですが、普及したての頃はソフトウェアはもちろんMacを憶えるため社内で勉強会を開いたりしたそうです。私は完全に独学でしたが。

しかしMacが使えるからIllustratorが使えるから仕事がいつまでもあるかと言えばそうとも言えません。たとえ大きな評価を得て一時は有名になったデザイナーだとしてもです。一時とても評価が高く、時代の寵児と言われもてはやされたアーティスト系デザイナーが、数年前風の噂に聴いたところによると仕事が全くなくなり生活もかなり切羽詰まっていると聴きました。「え、あの人が!」とかなり衝撃的でしたが、簡単に言うとアーティスト系なので飽きられた、というのが私の推測です。ちなみにその人はデザイン事務所を経営していましたがいつの間にか解散していました。ちなみにそのデザイナーのデザインは今見ても素晴らしいものばかりなので、才能が枯渇したとかそういう事とは別なのです。

イラストレーターもそうですが、アーティスト系のデザイナーも人気がある時は誰もが使いたがりますが、飽きるもの早いのです。代理店の会議なんかでも「今更○○さんは使えないよなあ」なんて言われてしまうのでしょう。実力とは関係なく。

モード内田がフリーランスとして独りで制作をしていのか、組織で社員を雇い作業をしていたのか、ここでは触れられていませんでしたが、フリーランス(自営業)はもちろんデザイナーを雇い会社組織にしても盤石ではないと言うことです。ではどうすれば良いのか? 今でも私は模索中です。

第十話 渋井直人の窮地

もう一人、アシスタント募集に応募してきた新井くりこ( 森川葵 )の面接をする。いつも風船を持っていないと不安だと言う。面接でもずっと風船を持ったまま…。本名で呼ばれるのが不安なので自分の事を「アレグリ」と呼んでくれと言われる。雑誌デザインの経験1年。デザインの詰めは甘いがInDesignは使える。時間もないし仕方なく雇う事に決めた。
新創刊の雑誌“エリーゼ”のアートディレクション作業は4人で行うことになった。

4人で作業を初めて数日。事務所から物がなくなる事件が発生した。杉浦は新しく雇ったアシスタント2人のうちどちらかが怪しいと睨む。杉浦はアレグリが席を外した瞬間、無断でアレグリの持ち物を探ると、事務所から無くなったものが出てきた。アレグリには万引癖があったのだ。

新雑誌“エリーゼ”の担当編集者(中村無何有)からすぐに会いたいと連絡が入る。急いで編集部に行くと、すでにデザイナーは渋井に決まっていたはずが、急にコンペに変わったと告げられる。理由は新しく雇った2人にあると言う。ひとりはすぐに暴れるモード内田、ひとりは万引癖があるアレグリ。2人が曰く付きなのを知っている人がいて、編集長が渋井には今回の依頼を断るようその編集者に告げた。編集長はかつてネガティブな要素がある人間を使ったことで、雑誌を廃刊に追い込まれた経験がありトラウマになっていたからだった。担当編集者はなんとか編集長を説得しコンペという形に持っていったのだった。

仕事終わりに杉浦が寄った店で売れているデザイナー・久保川ジャスール(内藤正記)を偶然見かけた。久保川が友人たちと話をしているのを杉浦が横で聴いていると、編集長から直々に「コンペという形になっているけれど、久保川さんに“エリーゼ”のアートディレクションを頼みたい。」と連絡があったと話している。コンペなのに裏では編集長とデザイナーがつながっている。完全な出来レースだったのだ。

完全に担当が決まっていたはずなのに突然コンペに切り替わる。実際結構ある話ですね。このような場合、デザイナーの実力不足とかそのような理由ではなく、多くは発注した会社の社内事情です。普通にやり取りをして、何度もデザイン修正を繰り返しやっと完成したと思ったら、最終デザインを上司に確認のため見せたら気に入らず、一からやり直しを命じられる。部下である担当者は何も言えず(言わず)にデザイナーにそのまま伝える。これならまだ良い方で渋井のようにプロジェクトのために人を雇い、機器を揃え、制作を順調に進めていっても、社内の事情でデザイナー変更とか普通にあります。もちろん私も経験があります。私に決まっていたはずの仕事が、発注者の知り合いのデザイナーに発注することになり、突然外された事がありました。

渋井は契約書は交わしていたのでしょうか。ドラマ内でその事には触れられていませんが、おそらく交わしていないと思います。出版関連は業界の慣習で契約書を交わすことがありません。ほぼ口約束です。良くて最初の発注段階のメールで「一式50万円でお願いします。」などでしょうか。この場合、キャンセルされた場合などの詳しい項目はないわけですから減額されていくら支払われるのかは不明です。ただしメールでも証拠として残してあれば、一応明文化されているので全く反故にされる事はないでしょう。

出版関連以外でも口約束で済ませる場合が、特にフリーランスのデザイナーには多いでしょう。これはかなり危険で、工程が多い制作など後から金額で揉めることがあります。面倒ですが作業前に作業工程を記し、金額を明記した見積もり、注文書や請負書、キャンセルした場合工程別のキャンセル料金などを明記した契約書類はきちんとしておくに越したことはありません。

SNSを見ていると「追加料金がないのに追加作業を多くやらされた」とか「納品後支払われた金額が想定よりも少なかった」などの投稿を多く見かけます。ほとんどは普通の企業なら中小でも交わしている契約書を全く交わしてない事が原因で驚きます。最悪なのが事前に金額を作業したデザイナー自ら明示していないのに、想定より受け取った額が少なかったと嘆いている人。そりゃ金額を作業前に言っていないのに、発注者からすると高いも安いもなくもめるのは当たり前ですね。

契約書をきちんとしておけば突然キャンセルされても例えば作業が50%まで進んだ所なら50%分はもらえるわけです。よほど極悪な発注者でない限り事前に交わした契約書の通りに実行してくれます。相手もキャンセルせざるを得ない事情はあるわけですから。

第十一話 渋井直人の仲間

“エリーゼ”のアートディレクション納品まで10日と迫った。深夜に一人表紙デザイン案を制作する渋井。ロゴを考えるため、紙に出力したものを壁に貼り、並べ検討する。まだメインの画像は考えていない。

出来レースで有ることは杉浦から聴いたが、渋井は「コンペであると聴いている、ただ頑張るだけ」と信念を貫く。腸は煮えくり返っていたが…。

いよいよ納品まで1週間を切った。表紙画像は決めたがまだロゴは決まらない。悩んでいたところ、渋井は偶然アレグリが描いた落書きを見つける。そこには魅力的な手書きローマ字が並んでいた。アルファベット大文字小文字全て紙に描かせ、それをスキャンし色を付け、ロゴに使った。渋井の思い通りに仕上がる。

その表紙案を見たモード内田が「紙はパチカはどうかな。」と提案する。渋井はコストがかかるパチカはどうかと消極的だったが、内田は担当する印刷会社の社長と昔からの知り合いだった。そこから話は進み言い値でパチカを使用する事ができるようになった。納品日の朝、内田がパチカ本紙を使った表紙の見本を印刷会社から持ち帰り皆で見て完成。無事に納品は完了したのだった。

渋井がやっていた、表紙案を紙に出力し検討する。これは私もやります。雑誌に限らず紙媒体のものはほとんどですね。やはり最終的に紙になるものは紙で印刷して実寸で見ないとわからないことが多くあります。壁に貼り出ししばらくそのままにしておく。他の事をしながらチラ見しているうちに、数日後アイデアが浮かぶことがあります。パッケージなど立体物も紙に出力し実際に組み立てて検討します。スマートフォン用のWEBデザインとかアプリとか、PCでシュミレートして作業しても最終的に実機で表示して初めて気づく部分があるのと同じですね。

出来レースであると分かっていても、コンペだと聴いているから納品する。これは渋井も少し意地になっているのでしょうか。落ちても参加費は出そうもありません。資金に余裕があればいいですが基本2人だけの事務所で現実的にはそれまでのキャンセル代を支払ってもらい忘れたほうが良いような気もします。

やたらとフォントを集めているデザイナーがいますが、そんなに種類が必要なのかと疑問に思うことがあります。どんな媒体でも見出し、本文で数種類。残りはキャッチなどに使う場合ですが、それも数百種類もいらない気がします。意外と手書き文字を使ってみると面白い事は実際にあります。以前はよく飲食店や量販店などの特売セールなど勢いがある文字が必要な時、毛筆で半紙に文字を書きそれをスキャンして使っていました(一応書道は有段者です)。やはりそういう文字はフォントでは無理なんですよね。

モード内田が提案した紙・パチカ( http://www.takeo.co.jp/finder/main/pachica.html )。用紙に加熱圧力を加えるとその部分が透けるという特殊な用紙です。私は使ったことがありませんが、雑誌の表紙、装丁、パッケージなどに使えそうです。

第十二話(最終話) 渋井直人の休日

“エリーゼ”の納品を済ませた直後、三浦カモメに振られる。
そしてコンペにも落ちた。編集長以外は渋井を押したのだが力及ばず。
アレグリは手書きフォントの才能に気が付きフリーで活動し、モード内田にDTPは結局合わずデザイナーを廃業して別の道へ。

コンペに落ちた以外特にデザイン関連の出来事はありませんでした。

このデザイン事務所の光景を観て机の配置が気になりました。それは渋井が一番後ろに居て、全員のモニターを常に見ることできるような配置になっています。社長としては監視できて良いと思いますが、社員としては常に見られているようで緊張しますね。少しの息も抜けない感じ。またアレグリが臨時アシスタントとは言え自分で持ち込んだのか、ノートPCで終始作業をしていました。デジタル媒体ならまだしも大型のモニターが昔に比べ大分安価になった現在、DTP作業はA4版を実寸で見ることができるサイズのモニターは欲しいですね、と言うかそうでないと作業が厳しいです。

おまけ

毎回おまけ動画として渋井とゲストの即興演技が“裏渋”としてオフィシャルサイトで公開されていました。
https://www.tv-tokyo.co.jp/shibuinaoto/special/movie.html
本放送を見た後、これを見ると笑えます。

少し長くなりましたが、Blu-ray、DVD、ストリーミングで全話配信されていますし、1話30分なので気軽に観ることが出来ます。気になった人はこのブログを思い出しながら「全然違うじゃないかよ!」など言いながら観ると楽しめるでしょう。ここには書きませんでしたが“非モテ”中年男のドラマ部分も面白かった事を付け加えておきます。

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