印刷所へデータを入稿する際のカラー・モードは?
結論から言うと今まで通りCMYKモードでお願いします
何故今更、新人デザイナーが初日に教わるような事を書こうと思ったのかと言うと、昨日あるイラストレーターの人のこんなツイートが回ってきたのです。
「ちゃんとした印刷ではRGBの方が色が正確に出ますよ。」と美術手帖の編集者に教えてもらったのが10年前。私もそれ以来RGBのままです。
Twitterより
結構な数のRTと「いいね」が付いています。全然「いいね」ではないですし、素人や初心者デザイナーが誤解すると思います。この前後のコメントも別の人が皆RGBモードで入稿しているとあります。
私が大昔印刷会社でデザイナーをしていた時に、その印刷会社が初のフィルム出力機を導入し、初代オペレーターとして仕事をしていた事があります。このツイートを見た時に「いやー時代は変わったなあ。RGBの色が正確に出力出来るようになったのか」と一瞬ですが思ってしまいました。しかし以下に説明するように現在でも一般的なチラシ、リーフレット、パンフレット、書籍などのカラー印刷──プロセス4色印刷──では物理的にRGBの色を再現するには限界があります。
2024年6月17日 追記
最近「印刷所からRGBモードで入稿した方が再現性が高いのでRGBモードで入稿してくれと言われた」とのコメントを数件いただいた。
基本的に印刷入稿の場合はCMYKモードで入稿するというのは変わらない。先述の印刷所がどこなのか不明なので確認しようがないが、推測するとPhotoshopでRGBからCMYKにメニューから1発で変換するよりも、印刷所側でよりRGBモードの再現性が高い変換方法を行っているのではないだろうか。ただし印刷方法がプロセス4色の場合はCMYKのインキを使っているので最終的にCMYKモードに変換している。
もし印刷所側から「RGBモードで入稿してくれ」と言われたのならRGBモードで入稿した方がよいだろう。
身近な印刷の種類
印刷方法には何種類かありますが、一般的なのはプロセス4色印刷とそれと同じ位に家庭用でも使われているインクジェット印刷、この2種でしょう。プロセス4色印刷にさらに特色である金・銀・パール色や蛍光色などを追加する場合もあります。私が今まで扱ってきたのはこの2種にシルクスクリーン印刷位です。他にもグラビア印刷(凹版)などがありますが特殊な用途です。
RGBモードとCMYKモードの違い
RGB(R=Red、G=Green、B=Blue) とCMYK(C=シアン、M=マゼンタ、Y=イエロー、K=ブラック)の違いですが、これは検索すればどこの印刷会社のサイトでも詳しく書かれています。多分間違って入稿されたくないからでしょう。簡単に言えば、
- パソコンやスマートフォンなど画面で見る画像やイラストはRGB
- 印刷する場合はCMYK
と考えて間違いありません。
なぜRGBで印刷データを作成してはいけないのか
では何故RGBで印刷してはいけないのでしょか。それは色域(カラースペース)という、人の目で認知出来る色の範囲全体の中で、左の図のようにRGBの方がCMYKよりも再現出来る色の範囲が広く、CMYKの範囲を外れたRGBの色 (RGBとCMYKの重なっていない部分) をCMYKでは再現できないからです。具体例を見ましょう。
上の画像は撮影されたRGB画像をPhotoshopでCMYKモードに変換したものです。あえて鮮やかな画像を選んだので分かりやすいと思いますが、誰が見ても分かるようにRGB画像に比べてCMYK画像は色がくすんでいます。モニターで見るのと印刷された実際の紙で見るのとはまた大きく違います。紙で見たほうがより違いが分かるでしょう。
このようにRGB画像をそのまま印刷所へ入稿しても何も言わず印刷してくれるかもしれませんが、この様に色が大きくくすむ事を念頭に置かないといけません。実際にはカメラマンやデザイナーがこのくすみを抑え、なるべく元のRGB画像に近くなるようにPhotoshopを使って色調整することもあります。それでもRGBの鮮やかな画像と同じ色調にはなりません。この仕組を知らない人が、自分の提供した写真の色と実際の印刷物を見てクレームを入れることがあるので、印刷所は自分の所でRGBからCMYKの変換を行わず、印刷所への入稿時にCMYKでの入稿をお願いするのです。
私もイラストレーターやカメラマンから提供された画像を使用して、CDのジャケットデザインや本の装丁をすることがありますが、基本的にはイラストレーターやカメラマンの人にRGBではなくCMYKでの画像提供をお願いしています。そうでないと印刷されてから、自分の思っていた色と違うと言われかねないからです。
RGBで入稿しても結局CMYKに変換している
では先のツイートのイラストレーターは何故RGBで入稿しているのでしょうか。コメントを入れてRTしましたが現在まで返事がないので詳細は不明ですが、どこかの段階でRGBからCMYKの変換は行っているはずです。「 RGBの方が色が正確に出る 」の「正確」の基準が分かりませんが、どこかの熟練した職人がCMYKに変換後、元のRGB画像に近づくように色調整を行っていると思われます。もちろんこれはひと手間掛かりますので、その分費用もかかるでしょう。激安印刷では対応出来ません。
また印刷会社のWEBサイトを見てみると「RGBの方がきれいに印刷できる」と書いてある印刷所がありました。例えばこの印刷会社 https://www.ooban-senmon.com/?mode=f25。よく読むとこれは少部数のポスター印刷の事を言っているようです。少部数の場合はプロセス印刷よりも安価に印刷ができるため原理は家庭用と同じインクジェットで印刷する事があります。ここでは何故かCMYKとRGBを比べていますが、4色より多色の5色や6色のインクジェットで印刷しているのでしょう。インクの色数が多ければ、それだけ通常のCMYKの色域を超えた色を再現することができます。しかし当然色数が増えれば印刷代は高くなりますし、それ以前にインクジェットは大量部数には向かないことを考慮するべきです。
色数を増やす事でRGBに近づける
インクジェット印刷のように色数を5色や6色のように増やせば、4色より鮮やかな色を表現する事が可能ですが、最近はプロセス印刷でも5色、6色と色を増やしより鮮やかな色を再現出来るようです。ただし現在でも様々な印刷物のデザインを手掛けている私でも、特色を使う以外の6色印刷は扱った事がないので特殊だと思われます。当然印刷費も通常の4色よりも割高になるでしょう。美術印刷のようにより色の再現性を求める印刷物には使われているのかもしれません。
まとめ
普通に印刷会社に依頼して印刷するのであれば、やはりRGBではなくCMYKに変換してデータ入稿しましょう。イラストレーターや写真家であればCMYKに変換した後に“彩度”、“明るさ”や“色合い”などの色調整を行い自分の目指す色に調整します。もっとも事前に印刷物に使うことがわかっているのであれば初めからイラストをCMYKモードで制作すれば作業も合理的になるでしょう。RGBのまま受け付けてくれる印刷会社もありますが、その場合元の色と異なることが予想されますので、そのことを念頭においたほうがよいでしょう。またプロセス6色印刷を受け付けてくれる印刷会社もありますが、印刷代や6色版を作るためのコストを考慮しましょう。