
「Canva vs Adobe」の話がみんな大好物
相変わらずデザイナーによるCanvaに対するdisりがひどい。その理由はCanvaでは細かいデザインができない、一般的な印刷ができない……など。まず大前提が違う。CanvaはIllustratorやPhotoshopの競合ツールではありません。あえて言うのならAdobe Expressなのだが、Canvaに比べるとこれが圧倒的に知名度が低い。CanvaはテレビCMまで流しているし。使う人が増えて目立つから批判が多いこともあるだろう。
どちらも道具でありデザイン制作の本質とは無関係
CanvaもAdobeもどちらもデザイン制作をする際の単なる道具(ツール)であり、デザイン制作の本質とは関係ない。デザイン制作をする場合、極端な話デザイナーは紙と鉛筆でデザイン制作ができる。またデザイナーがチラシ制作をして印刷してお客さんに納品する。その時にお客さんからすれば希望通りのチラシが納品されれば問題なく、Canvaで作ろうがAdobeで作ろうがそんなことはどうでも良いのである。そんなことよりも安く集客に効果的なチラシが欲しいそれだけ。
既得権益を失うことへの恐怖心が根本にある
ではなぜAdobeを使うデザイナーがCanvaを使うデザイナーを批判するのだろうか。実はこれツールを批判しているのではなく、それを使う人を批判しているのではないだろうか。その多くはデザイン素人であり初心者である。
よく見るSNSの投稿に「Canvaデザイナーがバナーデザインを3000円で請けていた。これでは素人デザイナーがはびこりこんな低価格で請けるから業界全体の報酬額とデザインの質も下がる。ムキッー!」。確かに安価で請けていて、質も低いかもしれない。しかし質が低くてもバナーとして成立していれば安く発注したいという一定数のニーズがあるのも事実。ここで需要と供給が合致するのである。
本質はプロデザイナーと素人や初心者デザイナーという対立軸なのだ。素人がIllustratorより簡単に短期に使い方を習得できるCanvaを使うことで自分達の領域に進出してくる。今までCanvaよりちょっとだけ習得が難しいIllustratorを使わないとできないと思われてきた企業のチラシデザインが、実はCanvaを使えば非デザイナーの社員でも簡単にできてしまう。企業としてはIllustratorを使うプロデザイナーに頼んだほうが質が高いことは承知している。しかしそれには例えば毎回5万円かかっていた。それが質は落ちるが社員が作れば0円。コスト削減になるし内容はそれで十分。または中堅デザイナーが今まで3万円で請け負っていたバナーデザインを、Canvaデザイナーが3000円で請け負ってしまう。そしてその中堅デザイナーは仕事を失う。そんなことが様々な場所で起こっている。そんな既得権益を失う事態に対して恐怖心を抱いているデザイナーが必死に批判しているのだ。
便利なツールができると制作者の間口が広がり増える
考えてみればDTP登場前のデザインは、デザイナーがレイアウト指定紙に文字指定、色指定、写真のアタリを書き込み、写植で打ち出された文字を貼り版下として制作していた。印刷所へ入稿前の原稿はデザイナー1人では無理だった。それがDTP登場以降はデザイナーという間口が広がり、デザインを学んだことなどない素人が多く参入してきた時代でもある。Macが使えればデザイン制作ができるようになった。この革命はCanva vs Illustratorの比ではなかっただろう。それはアイデアやセンスがあればそれを容易に具現化できるようになった瞬間でもある。
そしてCanvaというツールによりさらに参入するハードルは下がった。街の個人店店主でもデザイナーに発注することなくチラシのデザインができる。今後も生成AIや未知のツールの登場により非デザイナーの参入はさらに増えるだろう。
まとめ:これからのプロデザイナーとは
非デザイナーがCanvaで作ったチラシに満足がいかなければプロに依頼すればよいのだ。そこで依頼されたプロはIllustratorが使えるからプロなのではなく、デザインのプロであることを忘れてはならないしさらなる研鑽が必要だ。
それを忘れてCanvaやその利用者を批判することは筋違いだ。レベルが低いデザインがはびこった結果、デザイン業界のレベルが下るなどと無名デザイナーが心配する必要はない。