起業する人はもちろん物を売る人は必見
ビジネス関連のSNSアカウントで、先週末位から話題になっているアメリカ・ディスカバリーチャンネル制作のドキュメンタリー番組「起業チャレンジ! 覆面ビリオネア(原題:Undercover Billionaire)」。偶然スカパー経由で観ているディスカバリーチャンネルの番組表で見つけ、前知識なく何となくタイトルだけ見て録画して観たのだが、これが非常に面白い。調べてみると2019年の番組で、その再放送だったのだが私と同じように偶然観た人たちが話題にしていた。
ディスカバリー・チャンネルのWEBサイト上ではページが削除され情報はない。放送予定もない。ただし公式YouTubeチャンネルでテレビ版と同様の吹替版動画がアップされている。ちなみに私の視聴したCSスカパーのディスカバリー・チャンネルでは1エピソード約44分でエピソード8まで放送された。
- Ep1. 億万長者の挑戦
- Ep2. 限界を超えろ
- Ep3. 敢然と困難に挑め
- Ep4. 砂上の楼閣
- Ep5. 痛みなくして成長なし
- Ep6. 覆面の危機
- Ep7. ラスト・チャンス
- Ep8. 明かされる秘密
個人事業主、フリーランス、会社経営者、マーケッターなどにとって必見の番組。「起業」とタイトルに入っているが、それ以外にも学ぶべき場面が多くある。もちろんそれ以外の人にとってもドキュメンタリーとしてとても良く出来ている。
人生の苦難を乗り越え成功した億万長者
億万長者のGlenn Stearns(グレン・スターンズ)が、自分の成功は運だけではない。自分の力だけで事業を成功させることが出来ることを証明するためのドキュメンタリー番組である。
グレン・スターンズの経歴を列挙すると
- アメリカ人男性。撮影当時56歳(番組中では55歳)
- 両親はアルコール依存症
- 学習障害がある4年生で落第
- 14歳で父親になる
- 学校の成績は底辺レベル
- 貸付業に未来があると感じ、25歳で会社を起ち上げる
- 10歳から40歳まで6人の子供がいる
- 51歳の時に喉の癌になる
100ドルの元手をわずか90日間で1,000,000ドルに増やす
事業を起こし成功するために、多くの人は裕福で有利な環境が必要だと感じているが、大金や大富豪の父親は必要ないことを証明するため、撮影の10年位前からグレン自ら企画したそうだ。
それを実行するためにいくつかの条件を設けた。これはまさにゼロからスタートという企画に合致している。以下の条件の元で行った。
- コネを使わないため、偽名を使い正体を隠す。90日間の期限も秘密。
- 全く知見のない街ペンシルベニア州エリーで起業
- 90日間で起ち上げた事業の評価が、1,000,000ドルから1セントでも足りない場合は自腹で1,000,000ドルを払う
- 持ち物は以下の3点のみ
1.連絡先が登録されていない携帯(知り合いに頼れない)
2.現金100ドル
3.中古の小型トラック
番組冒頭では、ヘリポート付きの豪華クルーザーからヘリコプターに乗り、エリーへ移動する場面で始まる。途中ヴァージン・グループの創設者リチャード・ブランソンとテレビ電話で会話。本物の金持ちだと実感させられる。それが一転、荒涼とした風景の街エリーに到着。当然住む家もなければ、知り合いもいない。初めのうち100ドルではホテルに泊まることもできない。仕方なく数日はシャワーを浴びることも出来ずにトラック内で車中泊する。そこから始まるのかと本気度を感じる。
続きはネタバレになるので映像を観てほしいのだが、いくつか途中でビジネスの基本とも言える名言が随所で飛び出す。
- まず買い手を見つけて相手のニーズに合わせて仕事を進めるのが鉄則。大抵は商品を作ってから売る相手を探す。それが大間違い。
- 生きるか死ぬかの環境では、ビジネスなどを始められない。生活の基礎を整えてからビジネスを始める。
- 投資の基本は安く買って高く売る。
- 群集心理を利用せよ。グループを狙って商品を売る。もし2人が買ってくれれば、他の仲間もそれに合わせて買ってくれる可能性が高い。
その他多くの名言が連発する。内容は当たり前ではないかと言う人もいるだろうが、この番組の中でグレン自身も忘れて失敗する。特に1つ目は金言。
この番組を観て思うのは、グレンの誠実さと事業に賭ける熱さ、そして生命力の強さ。絶対にあきらめない。人間としても素晴らしい。決して相手を見下すことはせずに、常に気を使っている。
人と会う時には、“55歳の男が人生を再スタートするために起業する番組の取材”という仮の番組でカメラを回している。わらしべ長者のように、徐々に元手を大きくしてチームを作るのだが、その人集めの方法に驚く。支払う給料はないので労務出資の形をとる。簡単に言えば決まった労働に対する対価を支払うのではなく、チームのメンバーそれぞれが出資者となり事業で儲けた金を後から分配する。
ここで見ず知らずの人にこんな事を話しても、誰も当初無償で働く人などいないだろうと考える。そこがグレンなのだ。グレンは人を募集し、面談する中で人々に言う「最初の2ヶ月は給料が出せるかどうかわからない。一緒に夢を見て後から楽しかったと思えるような仲間を探したい」のだと。当然、フルタイムでは働けないので皆本業を持ちながら協力してくれるのだが、中には生活があるので無理だと断る人もいる。これはグレンの人柄や魅力によるものが大きいと思う。
うがった見方をすれば、
- ゼロからのスタートとはいえ、現実的には一生生活に困らないほどの資産があるので、精神的に追い詰められていない
- グレンとは関係なく、カメラが回ることで出演した人にとっては大きな宣伝になる
- 90日間という過酷な日数制限があるので、強引に進めるしかない
とも言えるのだが、細かい事を言って突き詰めたら番組にならないので仕方ないだろう。
ただ番組の感想で誤った認識のコメントを見たのだが、銀行から融資などは一切受けていない。一貫して無借金だ。番組を観ることで盛り上がり自己啓発的にもなるし、座学のマーケティング理論だけでは分からない細かい実践方法は色々役に立つ。私もこの記事を書いていてもう一度観ようと思った。最後、目的に一心不乱に挑戦する仲間って良いなと感動してしまった。
デザイナーとしての新規開拓営業の難しさ
私事になるが、デザイナーとして独立してから数年は、その直前まで在籍していた会社から下請けの形で順調に仕事をもらっていたのだが、それも数年経つと不安定になり、自分で新規顧客開拓をしなければならない状態になった。それからは会社経営者の起業本を手当たり次第に大量読んだのだが、0→1のうち0.5位の部分がどの本にも詳しく書いていない。物語として地味で面白くないからなのだろうが「飛び込みで営業をした」「寝ずに働いた」と苦労をしたことは書いてあるのだが、具体的な営業方法がどこにも書いていない。例えば少し古い本を読むと、当時の革新的な新規開拓方法としてFAX DMというファクシミリを一方的に送る方法があるのだが既に使えない。業種として属人性が高いデザインという仕事も不利だった。大体デザイナーで新規開拓営業をしている人を当時は知らなかった。もしかしたら私くらいだったのかもしれない。営業先でデザイナーが営業活動していのは珍しいとよく言われた。よほど実力がなくて仕事がないのだろうと思われていたのかもしれない。
今ではコンテンツ・マーケティングやSNSを利用して、デザイナーでも新規開拓が可能になったことを実証している人はたくさんいる。私の場合は結果が出ているとは言えずまだ道半ばだが。
この番組は、その0から0.1きざみづつ1へ達するまでの方法を、実践しながら詳しく説明しているのが興味深い。シリアル・アントレプレナー(連続起業家)という言葉があるが、彼らは成功した事業の資本を使い、次の事業の資金に当てるのでこの番組の内容とは大きく異る。有名起業家でも魔法のような開拓方法があるのではなく、地味に一つ一つ分析しながら行動あるのみなのだ。
今月末には新シリーズが始まる
この記事を書いている途中に、永江一石さんに先に書かれてしまった。前回のビートルズももっと早く書くべきだったが、それよりもこの記事を先に書くべきだったと反省。SNSで話題になった事柄は一刻でも早くリリースするのが大事なのだ。
CSディスカバリーチャンネルにて、シーズン1の続編「起業チャレンジ!覆面ビリオネア リターンズ シーズン1」が2022年8月27日スタートとのこと。情報が何もないので内容が分からないが期待したい。
この番組は実際にWEBサイト、Facebookページ、Instagramが存在していて今でも更新されている。