1970年代に多くのレコード・ジャケットワークを描いた長岡秀星。その幻想的かつリアルで緻密な画風は唯一のものだろう。代官山で回顧展を観てきた。
長岡秀星が初めて描いたジャケットはロサンジェルスに設立したデザイン・スタジオ 「デザイン・マル」名義での、VAN DYKE PARKS / Discover America(1972)。まだ、この頃は後に見られる作風はないが、どこか現実離れしていて不思議な印象。残念ながらこのジャケットの原画は今回展示されていなかった。
その後、CARPENTERS / Now And Then(これを一番見たかったのだが未展示)やソウル、ファンク系音楽を中心に多くのジャケットアートを描くことになるが、今回の回顧展でもこれらの音楽関係の原画が多く展示されていた。特に親交の深かったMaurice White率いるEARTH, WIND AND FIREの数点のジャケットは圧巻。Maurice自身が描いたとBS-TBSの番組Song To Soulでも長岡氏自身が説明していた、「太陽神」のアイデアスケッチも展示されている。
1970年代にエアーブラシを使用して、スーパー・リアルな絵を描くアーティストは他にもいたが、今まで印刷されたレコード・ジャケットでしか見たことのない、長岡秀星のイラスト原画を間近で見る機会であった。
インタビューでアルバムアートの原画は、最も印刷効果の良いとされる1.5倍(縦約45cm)で描くと語っている(実際はもう少し大きく50cmはあると思われる)。印刷物をルーペなどで拡大してみても、通常はプロセス4色印刷という方法で印刷されているため、それは網点の集合でしかない。それが原画を見ると、細かい線一本一本まできれいに描かれているのが分かる。現代ではグラフィック・ソフトを使用すれば容易に可能だが、1970年代に板にアクリル絵具を使い、面相筆、烏口、エアーブラシというアナログな道具で描き、どれほどの時間を掛け集中して描いたのだろうかと考えると気が遠くなる。原画を見る限りここまで緻密に描いている人は、少なくとも1970年代には居なかったのではなかろうか。
絵画やイラストの原画を見るという事は、印刷では分からないその細かいタッチや原画が持つ圧倒的な存在感を感じるという事だが、今回は一枚一枚近づいてゆっくり見る機会を得て、その緻密で正確なイラストに感動した。
展示最後には長岡氏所有のレコード・ジャケットも展示されていた。やはりCARPENTERSと、当初「僕らのイメージとは違う」と言われたが、「アルバムが出たら好評で、彼らは自分のアイデアみたいに喋っていた」*というELECTRIC LIGHT ORCHESTRA / Out Of The Blueの原画は是非見たかった。
WEBでの前売り券を買っても良かったが、ポストカード付き当日券で観覧した。2,300円(税込み)。
会場ではポストカードセットやイラスト集も購入できる。
ちなみに写真撮影OK。
2020年12月27日(日)まで代官山ヒルサイドフォーラムF棟にて開催。
https://www.bsfuji.tv/shusei_nagaoka/
参考文献
*レコード・コレクターズ増刊 ジャケット・デザイン・イン・ジャパン 音楽とヴィジュアルが交歓する四角い宇宙
長岡秀星のインタビューが掲載されている