近年一般のニュース上でも話題になることが多い、ジャパニーズ・シティ・ポップ。そのディスコグラフィー本のブックデザインを担当した。
制作者自身大好きな音楽のジャンルであり、何度も参照するディスコグラフィー本なので、本文も読みやすく目的のアルバムを探しやすいようにデザインした。
また他の書籍デザインではあまりない、販促物の制作も行った。
長い間参考にしていた本の増補版デザイン担当に
私も熱心な読者でありレコードやCDを購入する際に参考にしていた、Light Mellow 和モノ669の新装・増補改訂版のデザインを担当した。元々は2004年に出版され、今やシティ・ポップの定本とも言うべき書籍。そのデザイン担当として依頼を受けた時は大変光栄に思った。旧版は偶然にも知合いのデザイナーが担当したので、当時羨ましかったことを思い出す(彼はこの後、エディトリアル・デザイン界では有名なデザイナーになった)。
今ではシティ・ポップのディスコグラフィー本は多く出版されているが、当時はこの本くらいしか存在せず、しかも内容が濃く、コレクターには大変貴重な資料であるため、絶版後はかなりのプレミアム価格で取引されていた。
その増補改訂版なので、単なる読者として良いものを作ろうとかなり力が入った。
打合せ
打合せは編集者、監修の金澤さんと私の3人で行った。希望するカバーのイメージとして伝えられたのは「都会の中に一本道が通る風景」というもの。
本文デザインに関しては、旧版を元に+αの要素を追加する。掲載数は前回にプラス160枚以上。
サムネール作成
カバー・デザインとして当初考えたのは、シティ・ポップの定番雑誌FM STATIONを模したもの、ディスコグラフィー本なので中古レコード店の壁モノレコードのイメージ、旧版に準じた空・ビル・森のイラストまたは写真、アナログ・プレーヤー、長い道を車が走っているイメージ、ビルと森……など思いつくままにサムネイルを描いていった。
打ち合わせ時の「都会の中に一本道が通る風景」を1案。そして旧版を想起させるデザイン1案。ディスコグラフィー本には定番のアルバムカバーをメインビジュアルにしたデザイン1案。合計3つのラフデザイン案を作ることにした。
本文に関しては、旧版と掲載する内容はほぼ同じ。それにいくつかのスペックをプラスすることになった。
撮影
作成したサムネイルを参照しながら、ラフデザイン制作に入る。先ず「都会の中に一本道が通る風景」を第1案として作ろうとして、都会、森、車、一本道、ビル、青空などのキーワードで画像検索を掛けたが理想のものがない。仕方がないので自分で撮影をすることにした。デザイナーは忘れがちだが、時間を掛けて適当な画像を探すよりも、自分で撮影した方が早く、自由が利くことが案外多い。大型バイクで都内を走り回り、よいロケーションを探す。デジカメでも良かったが、チープな感じを出そうとしてあえてiPhone5sで撮影した。9月1日の残暑が厳しい中、イメージに近い一本道……いや6車線を見つけた。それは代々木公園を貫く代々木公園通り。歩道橋の上から原宿方面を撮ると、見事に思い通りの画角。素材なのである程度見当を付けつつ大量に撮りまくった。
森と一本道はいい。しかし素材として欲しい空と雲がここでは今ひとつだったので、再び都内をバイクで走り回り上野・不忍池で再び撮影した。夏なので空も雲もきれいに撮れた。
「都会」を表すビル群が必要だと思い、再び都内をバイクで走り回り西新宿にたどり着いた。あらゆる高層ビルや都庁展望室に登り撮影もした。
コラージュによる画像加工
撮影をしたと言っても1枚の画像で満足できる風景はないので、コラージュを施しメインとなる画像を作成する。撮影しながらそのことを考えていたので、並木と道路は代々木公園通り、空と雲は不忍池、ビル群は西新宿、それぞれの画像を切り抜き、変形、色調整を行いコラージュしてゆく。
想定していたのは、トイカメラで撮影したような箱庭的なイメージ。それとコントラストを強く、彩度を上げ、ポスタリゼーションを施した絵画調のイメージ。
時間を掛けて色々試行錯誤をした結果、後者の絵画調のイメージを作った。
代々木公園通りで撮影した画像には、ちょうど南中時刻だったせいもありいい具合に木々の影が道路に強く写っている。車が少なかったので、何台かの車を他の画像から切り抜いて持ってきた。奥に見えるビル群も、あり得ない構図に敢えてしてある。
カバーのラフデザイン
ラフデザインは3案制作した。都会の中を1本道が走るイメージ、旧版のイラストを画像で表現したもの、ディスコグラフィー本によくある壁にレコードジャケットを掲げその脇にはレコードプレーヤーがあるイメージ。ラフなので大まかなイメージをつかんでもらえれば良い。
カバーデザイン決定
著者が希望した「都会の中を1本道が走るイメージ」案が採用され、タイトルフォントのウェイトを上げるなど調整をしてカバーデザインが決定。
本文デザイン
旧版の本文レイアウトは「田」の字ように1ページに4枚が掲載されており、重要なものは横の2つの枠を合わせ1枚としていた。文字数は旧版と同じなので、旧版と同じ「田」の字型のレイアウトで1案。4枚を上から順に並べるレイアウトで1案作った。結果後者の上から順に並べる案が採用された。
ページレイアウトデザインは、涼しげで洗練され、風が吹いている様な、寒色系のイメージを表現している。もちろん辞書のように、サッと取り出しどのページやどの項目へもすぐにアクセスできるように考えている。
大扉の制作
本文大扉は、カバーデザイン案作成時に候補から落ちたデザインを加工したものを使用した。
本体表紙の制作
本体表紙には、大量に撮影した画像の中から、カバーデザインにかぶらないものを選択して使用。表1は代々木公園通りを山手通り方向に撮影したもの。表4は新宿。
色はDIC174で実際は明るい黄緑なのだが、何故かこの画像では水色になっている。
カバーとオビ・データの制作
カバー表4には、表1を基本として、ビルや走行している車を削除、別の雲に差し替えた。コラージュ時に盛った左右の並木も削除している。コントラスト、彩度を落として本来の色に近くした。
オビ・デザインは、カバーの図柄が透けて見えるように、表1表4共に黒のカラーオーバーレイを載せた。これはオビのキャッチコピーを目立たせるためでもある。
フォントは太いゴシックを使い、堅実でシンプルなイメージを持たせた。
以上で印刷入稿用のデータがそろったので、編集者に送った。後は見本誌が届くのを待つ。
見本誌が届く
書籍デザインは何冊手掛けても、見本誌が届くまでいつも緊張する。
一通り見て今回は想定通りの出来上がりで安心した。
プロモーション・キットの制作 ─ タワー・レコード
私がデザインする書籍はマニアックなものが多く、大々的にプロモーションをすることは少ないのだが、今回タワーレコード渋谷店で場所を作り、掲載されているCDと共にディスプレイされることになった。それに伴い、ディスプレイ用のパネルを何枚か制作した。最近制作する機会は少ないが、元々SPツール制作も行っているのでPOP作りにも精通している。
「刊行記念トークライブ&サイン会」のチラシ制作
「刊行記念トークライブ&サイン会」が行われることになり、その告知チラシを制作した。大扉の画像を流用。
Facebookページ用の画像制作
専用のFacebookページを始めるにあたり、アイコンとヘッダー画像を制作した。
まとめ
今回は書籍のデザインだけではなく、販促物、ディスプレイ用のパネル制作とデザインも多岐にわたった。時間はかかったが大好きなジャンルの音楽なので、楽しく仕事をさせてもらった。個人的にも今後この本を参考にして、まだ未知の音楽に出会うことになるだろう。
[2018年追記]小冊子付きの重版デザイン制作
2013年に出版されたこの本も大好評に付き、重版されることになった。それに伴い、オビに重版を表すコピーを追加、また2018年までにリリースされた新譜を新たに追加(30枚!)した「New Commers 読本 from 2014」が小冊子として付くことになった。
小冊子のデザインは表紙と本文含め、本誌を踏襲している。