出来るデザイナーの条件:客の意見に耳を傾けてみる

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発注者の意見に耳を傾けてみる
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自己プロデュースの音楽は案外つまらない

CDやレコードの制作が豊富になってくると、初めは勝手が分からなかったプロデューサーの役割が分かってきて、全て自分でコントロールが出来るセルフ・プロデュースをしたくなるのがミュージシャンの性だろう。音楽制作のコスト管理から、バック・ミュージシャンや制作環境の選定まで、販売や営業、事務作業以外はほぼ全てが自分の思い通りにできる。アーティストとしては理想の環境であり、これほど自己の才能を何の制限もなく発揮できる場はないように思われる。
しかし、実際に発売された音を聴いてみると意外とつまらないことが多い。もちろんこれはファンとしての感想で本人は満足しているかもしれない。

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完全自主制作の音楽は長く続かない

もっと極端な例を挙げると、音楽制作環境の高品質と低価格化、またインターネットやSNSがこれほど浸透してくると、別にレコード会社に頼らなくても、ワンルームの自宅に作ったスタジオで録音からマスタリングまで施し、音源をストリーミングやファイルで配信し、多くの人々に届けることも簡単になった。そうなるとレコード会社と契約しているミュージシャンは、自己プロデュースだけでは満足できなくなる。レコード会社からの「売れる音楽」「売れない音楽」という声さえも自己の創作活動には邪魔になり、自主レーベルを立ち上げ一切他からの影響を受けずに、音楽制作をするミュージシャンも現れる。

しかしこの場合もつまらない作品が多い。何故だろうか。ある日本のミュージシャンは、絶頂期にメジャーレコード会社から独立し、自己レーベルを立ち上げ活動していたが、しばらくして元に戻った。レコード会社と契約していると、売上から多くのマージンが差し引かれ、残った額がミュージシャンの収入となる。しかしその多くのマージンの内訳である営業、販促、その他の様々な事務処理手数料などが高いと感じるのだろう。それ以上に、関係者からの作品に対する意見は意外と大事なのだ。

少し話がずれたが、誰にも指示や助言を受けず、ミュージシャンの思い描く音そのままが市場に出る。何の制約も受けずミュージシャンの理想の状況で出来た音楽は、売上を別としても、それは果たして聴取者が望むものだろうか。多くはそうではないのである。厳しい言葉で言えば駄作。

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商業デザイナーはアーティストではない

アーティストであるミュージシャンとは異なるが、これをデザイナーに当てはめてみる。ただしデザイナーと言っても商業デザイナーのことであり、特に依頼がなく自己表現としてデザイン制作をするのはアーティストなのでそれは別の話。

デザイン事務所に入ったばかりの新人の頃は、出来上がったデザインに対して先輩デザイナーからの容赦ない修正が入る。なるほどと納得することもあれば、それって個人の感性によるものではないかと疑問に思いながら渋々従う。
数年デザイン事務所に勤め、念願の独立をすれば、先輩や営業にいろいろ言われることなく自分の思い通りのデザイン制作ができる……と、思いがちだがここからも自分の望まない修正依頼や、ダメ出しが容赦なく入る。今度は直接デザインの発注者である客からだ。事務所に所属していても当然客からの修正は入るのだが、所属している限り事務所の名前で仕事を取っているので、嫌々ながらも従わざるを得なかった。

ここで独立したデザイナーの勘違いが起きる。独立したのだから、修正依頼に嫌々従うことがなく、自分のデザイン思想が絶対的な正解だと信じて、客に自分のデザイン思想を押し付けるのだ。これが意外に多い。このようなデザイナーはまず自分が芸術家(アーティスト)だと思っている。芸術家なので自分の信念は曲げない、自己表現なのだから。客も専門職のデザイナー“先生”がそう言っているのだからそれが正解なのだろうと、徐々に修正依頼を出さないよう消極的になってゆく。このパターンも多い。その結果、元々少しの勘違いデザインがより大きな勘違いデザインになり、結果商品が売れなくなる。ここまで来ればもはや裸の王様”ならぬ、“裸のデザイナー”状態だ。

これは私の経験から言っているのであり想像や推測ではない。デザイナーを変えて担当が私に回ってきた時に何度か言われたことがある。「米本さんは文句を言わずにやってくれるから」と。客の修正依頼を素直に聴かない、作業が遅い、連絡が取れない・遅い、そんなデザイナーがあまりにも多すぎるのだ。一流のアーティストであれば、客側もその人でなければならないので、多少のわがままを許してくれるが、商業デザイナーは客がいて成立していることを忘れてはいけない。

客の意見に耳を傾ける

素人である客の意見や修正依頼は、必ずしも間違いでないことがある。デザインには素人でも、その道ではプロなのだから売り方を知っている。デザイナーはどうしても客視点でデザイン見ることが難しくなる。分かっていても自分の考える理想の“格好いいデザイン”、“おしゃれなデザイン”、“スタイリッシュなデザイン”にしがちだ。そこで自分の意に沿わない客の意見を聴くとイラッとすることもあるだろう。しかしそこで考えて欲しい。どうしてもプロのデザイナーとして“バランスが悪い”、“目的に合わない”と思うのなら、客に助言をしてみる。そうでないのなら客の意見を素直に聴き修正をする。

そうしてデザイン制作時には、客の意見を聞き入れ“ちょっと趣味が悪いな”などと思いながら納品した物も、しばらく経ってみると不思議と“やはりこれで正解だったかも”と思うことが多いのだ。そして他の客から依頼が来た場合、その“ちょっと趣味が悪いな”と思った意見を新たなデザインに進んで利用することもある。
BtoCの企業はお客様アンケートなどで意見を募り、それを商品に反映させていくことが多いが、BtoBであるデザイン業も全く同じ。客からの修正意見も積極的に聴いて採り入れ、次回からのデザイン制作に活かす方が自分も成長する。もう客以外誰もアドヴァイスはくれないのだ。

ついでに:フリーランスのデザイナーが守ること

組織に所属しているデザイナーであれば、ある程度組織という縛りがあり、規律もあるのでひどいデザイナーは少ないと思うが、フリーランス、自営業者は何故かひどいデザイナーが多い。
そこで、ついでだがデザイナーが業務上厳守すること。

  • 発注者の依頼は素直に聴く。ただし必要な場合は、プロとして助言を行う。
  • 作業は決められたスケジュール通りに行う。スケジュールがない場合は自ら作る。そうでないと永久にデザインは決まらない。
  • 発注者から連絡があった場合は即返信。遅くても24時間以内。返信に時間がかかりそうな場合は、その旨を先に伝えれば相手も安心する。連絡しない、無視は論外。

これらを守れば信頼を得て、普通に仕事をしていれば切られることも少なくなる(それでも切られることはあるのだが)。実際これらはデザイナー業に限らず、仕事をする者全てに当てはまるのことなのだが。

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