デザイナーのトラブルはだいたい契約関係

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デザイナーのトラブルはだいたい契約関係

個人事業主のデザイナーで、案件ごとに契約書を交わしている人はどれくらいいるだろうか。複数人が所属するデザイン事務所などの法人がデザイン業務を請け負う場合、必ず契約書は交わすだろう。しかし個人事業主のデザイナーの場合、口約束または契約に必要な最低限のことが書いていない簡単なメールのやり取りだけで仕事を請け、納品している場合が実に多い。これはかなり危険で、報酬の未払い、減額、作業内容が思っていたのと違ったなど、納品後に問題になったことは多くの自営業デザイナーが経験していることだろう。こういったトラブルは契約書を交わせばまず起きない。

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ケース1:報酬額によるトラブル

面識のないある企業から電話が掛かってきて、チラシ制作の依頼を請けた。
新規取引先の開拓ができたので、デザイナーも気分が高まっている。
そんな時よくある会話。

企業担当者
企業担当者

チラシのデザインをお願いしたいのですが。

デザイナー
デザイナー

いいですよ。

企業担当者
企業担当者

A4判で両面カラー、納期は1週間でお願いします。
必要な画像とテキストデータは後で送っておきますので。
簡単で良いですよ。
よろしくお願いします。

デザイナー
デザイナー

分かりました。
初校が完成したらお送りします。

ここまで、注文内容のやり取りは全て電話のみ。
素材データはメールで受け取った。

そして1週間経ちチラシは完成し、データを担当者に送り、全ての作業が完了した。

企業担当者
企業担当者

チラシの評判がいいですよ。
ありがとうございました。
請求書をお送りください。

デザイナー
デザイナー

承知しました。
早速お送りします。

(((少ない時間の中頑張ったし、
苦労してひねり出して3案提出したし、
少なく見積もって5万円で請求書を出そう)))

5万円の請求書をメールで担当者に送った。
そして翌日。

企業担当者
企業担当者

請求書を受け取りました。
ありがとうございます。
しかしこれちょっと高くないですか?
簡単で良いと言ったのですが。
予算もそんなにないので2万円でお願いします。
請求書の金額を書き直して再送してください。

デザイナー
デザイナー

えッ!
マジっすか?

企業担当者
企業担当者

マジです(冷静)

かなり強引に担当者に押し切られた。

デザイナー
デザイナー

(((やっていられないなあ。
交渉して印象が悪くなって、次の仕事が来なくなったら困るから、
ここは我慢しておこう。
そのうち大きな金額の仕事をくれるだろう)))

その後、このデザイナーに発注されるチラシ案件は全て2万円固定となり、値上げ交渉も怖くてできず、そのままズルズルとこの企業と仕事を続けた。そして永久に大きな仕事はまわって来なかった……。


実によくあるパターンである。流行りである。
発注担当者(企業担当者)には、受注者(デザイナー)から聴かれない限り、あえて金額を言わない者もいる。それは予め金額のことを言うデザイナーが極めて少ないことを知っているから。そして発注者>受注者というパワーバランス上、発注者の声の方がどうしても大きくなる。

この場合、受注者であるデザイナーが注文を受ける際に、金額を提示しないのが根本的にダメ。納品した後に金額を初めて提示すると必ず問題が起きる。それはたとえ発注者に悪意がなくても、発注する時点で予算を想定していて、ほとんどの場合デザイナーが考えている金額よりも安い。ここに発注者とデザイナーの金額の差による齟齬が生じるからである。
何故かデザイナーには、金のことを言う者のことを蔑む傾向がある。じゃあ、金はいらないのか、安くても構わないのかというと、1円でも多く欲しいのが本音。金は欲しいが、金のことは言わない、完全に矛盾している。デザイナーの妙なイデオロギーのためにこんなトラブルが起きる。

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ケース2:作業内容によるトラブル

自社WEBサイトを通じ、WEBデザインの注文が入った。
SEOが効いてきたのか、WEBを通して初めての受注なので、デザイナーの鼻息も荒い。

企業担当者
企業担当者

はじめまして。
今度、弊社で新サービスを始めるにあたり、キャンペーンサイトを開設します。
スマートフォン専用サイトなのですが、デザインをお願いできませんか?

デザイナー
デザイナー

ご発注ありがとうございます。
デザインの件、承知しました。
予算はいくらでしょうか?

企業担当者
企業担当者

予算が少なくて申し訳ないのですが、6万円でいかがでしょうか?
スマートフォンなので縦に長く、フォーマットとなる3画面ほど作ってください。
デザインは2案お願いします。

デザイナー
デザイナー

6万円で承知しました。
原稿と必要な画像データをお送りください。
完成しましたらXDデータでお送りします。

やりとりは初めからメールのみ。一度も音声通話はしていない。
金額も提示されたし、WEBで発注会社に特に問題がないことも確認した。評判も悪くない。
まだ新しい会社みたいだが問題はないと判断し、作業が終わり1週間後にラフデザインを2案提出した。

企業担当者
企業担当者

どちらも素晴らしいデザインですね。
部内で検討した結果、A案に決定しました。
修正点が何点かありますので、それらを反映させて完成データをお送りください。

デザイナー
デザイナー

ありがとうございます。
修正して3日後に完成データをお送りします。

デザインが完成して、データ納品も完了した。
後は請求書を送るだけである。

デザイナー
デザイナー

データに問題がないと言うことで安心しました。
請求書をお送りするので、項目名などお教えください。

企業担当者
企業担当者


まだコーディングが残っていますよ。

デザイナー
デザイナー

え!
コーディングまで含む話でしたっけ?

企業担当者
企業担当者

WEBデザインを依頼しているのですから、
コーディングを含むのは当然でしょ。
デザインだけで6万円も払うわけないですよ。

デザイナー
デザイナー

今までのやり取りのメールを全て確認しましたが、
コーディングという言葉は一言も出てきていません。
それにコーディングまで含むのであれば、
JSを使用するかしないかなど、
事前に仕様を決定する普通だと思いますが。
大体XDデータで納品と書いるのに、
HTMLデータで納品というのもおかしくないですか?
正式な契約書はありませんが、
メールのこれらのやりとりも契約書に準ずることはご承知でしょうか?

企業担当者
企業担当者

分かりました(渋々)
こちらは当初からコーディング込みで依頼したつもりでしたが……

その後、報酬は当初の通り入金されたが、その後この会社から一切依頼はなかった。
そしてデザインしたWEBサイトも未だに公開されていないようで、企画自体頓挫したようだ。


これまたよくあるトラブル。両者の間に作業内容の認識ズレがある。
報酬額は確認したものの作業内容は確認しなかった。WEBの場合、デザインのみ、コーディングのみ、またはデザインとコーディング両方という単純な作業内容で分けられず、コーディングの中にもJSまでコーディングするのか、jQueryやBootstrapは使用可なのかなど多岐にわたるので注意が必要だ。
しかし、電話など口頭によるやりとりではなく、メールという明文化された中でのやり取りであったので、デザイナーの主張を相手も認めざるをえなかった。メールでやりとりしたことが証拠となり、報酬は回収できたのでホッとしたデザイナー氏であった。

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ケース3:キャンセル時のトラブル

雑居ビルのテナント代表から「ビルに入っている各テナントを通行人にアピールしてビルを活性化させたい。何か良い案はないだろうか」と知り合いを通して相談があった。
その代表者は店のPRをしたことがない。広報手段にどのような方法があるのか等何も分かっていない素人だった。広告についても何も分かっていない経験がない人物で、少し手間はかかるだろうが丁寧に説明すれば分かってくれるだろうと、安易に考えていたのが間違えだった。何も分からない素人ほど、契約には気を付けなければならないのであった。

テナント代表
テナント代表

ビルのテナントをアピールする、
何かいい案を出してください。

デザイナー
デザイナー

承知しました。
コンサルティングも含まれますので、
その費用も請求しますがよろしでしょうか。

テナント代表
テナント代表

はい。

デザイナー
デザイナー

では、まだ具体的に何を制作するかも決定していませんが、
コンサルティングから初めますのでとりあえず見積もりを作ります。

制作物はまだ決まっていない。しかしコンサルティング自体は始まっているので、すでに費用は発生している。とりあえずコンサル代を請求して、その他の制作物にかかる費用は後から別に見積もるとの注意書きを付した見積もり書と契約書を作成した。

デザイナー
デザイナー

コンサル後、制作物が決まりましたら別に契約書を作成させていただきます。
とりあえずコンサル部分の契約書ですので、ご署名・ご捺印ください。

テナント代表
テナント代表

分かりました。

滞りなく契約書に署名、捺印をもらった。
これでデザイナーは安心して作業を進められる。

デザイナー
デザイナー

(((初めは素人で何も分かっていなく心配だったが、
とりあえず契約書を交わしたし大丈夫そうだ。
必要以上に警戒したのは杞憂だった)))

コンサルの結果、ビルの前に大きな看板を作ることになった。
デザイナーは簡単な設計図を作成し、看板制作会社をいくつか周り相談を初めた。
しかしまだ明確な看板の規格が決まっていないので明確な見積額を出せずにいた。

デザイナー
デザイナー

いくつかの看板制作会社を周りました。
それで制作可能な看板のデザインを3案作りましたので検討してください。

テナント代表
テナント代表

なかなかいいデザインですね。
迷いますね。
この3案それぞれの見積もりを出してもらえますか?

デザイナー
デザイナー

承知しました。

看板3案の制作費にデザイン費を加算して、テナント代表に見積もりを提出した。
その後しばらく連絡が途切れたので、こちらから電話してみた。

デザイナー
デザイナー

どのデザイン案に決まりましたか?

テナント代表
テナント代表

知り合いの看板屋さんに見積もりを取ったら、
あなたのところより全然安いのでそちらに頼む事にしました。

デザイナー
デザイナー

えっ!
そういうことをしてはダメですよ。

テナント代表
テナント代表

あなたの見積もりは高すぎます。
安い所に頼むのは当たり前でしょ。
同じものが出来るのだから。

素人なので全く話が通じない典型。
この段階でデザイナーはコンサルティング部分の契約書は交わしていたが、まだデザイン案が決まらず制作費も決定していないために、その後の作業である看板制作部分の契約書を交わしていなかった。
コンサルティングよりも看板制作費の方で報酬を得ようとしていたから損害は大きい。
テナント代表は別業者に勝手に看板制作を依頼するという暴挙に出た。
しかもデザイナーの案をそのまま看板屋に持ち込み作らせていた。
契約書にもキャンセル時の項目を入れていなかったため、デザイナーはコンサルティング部分の報酬額しか請求できなかった。
デザイナーはテナント代表と大喧嘩をしたが、らちが開かずコンサルティング費用が入金されたのみ。
しかも嫌がらせなのか入金日が1週間も遅れた。もちろんこれにも抗議したが話は通じない。


このようなことが起こることは少ないが、特に素人と取引をする場合は要注意。
そしてここでもっとも大事なのは、キャンセル時の項目を作業前に発注者へ提示することである。
「作業途中なら全額の60%を請求する」などのキャンセル項目の設定は必須だ。発注者は完成していないのだから払う必要はないだろうと考える人も少なくない。しかし受注者(デザイナー)からすれば、この作業のために時間を作り、他の依頼を断っている。キャンセルされれば機会損失が生じる。その分キャンセル料として発注者に請求するのは当然の権利と言える。

契約書を作ればトラブルは防ぐことができる

個人で作業しているデザイナーには、契約書を作り取引をするという習慣がない。口約束でやりとりし、結果不利な状況になっても泣き寝入りが基本である。しかもそのうち大きな仕事をくれる、または今後もずっと継続して仕事をまわしてくれるだろうという根拠のない思い込みで。
しかし現実はそんな甘くない。相手もなるべく安く済ませようとするのは当然で、そのためには平気で値下げや別のデザイナーに鞍替えすることは平気でやる。
そこで契約書を作成しておけば、法的根拠がどうのこうのという以前に、発注者も契約書があることで無理は言わなくなる。
では1枚数万円のチラシの依頼を受けるだけでも、わざわざ大量の文章が書かれた契約書を弁護士などの専門家に依頼しないといけないのか。そんなことはない。上述したケースのようにデザイナーが伝える最低限の項目は決まっている。

  • 総金額(税抜か税込かを明確にする)
  • 支払日
  • 納品日
  • 制作(作業)内容
  • キャンセル時の対応

個人で受けるような案件はせいぜい1案件数十万だろう。契約文章をPDFにして送るのもいいが、以上の内容をメールに書いて送るだけでもいい。特に金額は言いにくいだろうが、とにかくうやむやにせず、口約束ではなく、明文化することが重要だ。
作業前に発注者に以上の内容を確認してもらえば、よほどの悪人でない限りトラブルは起こらない。

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