「デザインする」という事は「いかにもなデザインをする」ことでもある

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いろいろな所で何度も書いていることだが、デザイナーに成り立ての頃は誰でもよし、いままで誰も思いつかなかった、すごいデザインをしてみせると志が高く、自然と鼻息も荒くなる。しかし、日々客からの依頼でデザイン制作をしてゆく過程で、そこには誰も思いつかなかったすごいデザインをする余地が無いことに気が付く。プロのデザイナーとして要求される事はいかにもなデザインを制作することでもあるのだ。

目的に合ったデザイン、注文主から要求されるデザイン、使用する者が使いやすいデザインなど、仕事をする上で、デザイナーの主観や主張が優先されるデザインはほぼない。デザイン制作をするデザイナーの作家性は必要ない。これは私が良く言うアーティスト・デザイナーと対比する、職人デザイナーというやつである。世間で職業をデザイナーと名乗る人は、ほぼ職人デザイナーと言って良い。

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デザインの初期工程

ここからは商業デザインの話に絞る。商業デザインとは、グラフィックデザイン、パッケージデザイン、タイポグラフィー、ブックデザイン、インテリアデザイン、家具のデザイン、コーポレートデザイン、WEBデザインの事で、インダストリアルデザイン、プロダクトデザインはこれらに対するものだとWikipediaには書いてある。
私の場合は、インテリアと家具のデザイン以外は全て手掛けている(WEBデザイナーがイラレを使えるから、ついでにチラシ制作も出来るのとは大きく違う)。それらの商業デザイン制作をする上で、注文を請け、デザイン案を考える場合にたどる初期工程は、どのジャンルでも実は同じである。それは注文を請けたものに対するキーワードとなる、パブリック・イメージをなるべく多くアウトプットする事。
例えば、日本に来る外国人向けのチラシを作る場合を考える。
多くの外国人が抱く日本のイメージ。それは、
→富士山、芸者、折り鶴、和食、日の丸……
ここからさらに掘り下げて、
→和食→はし、寿司、刺し身……
→日の丸→海岸線から登る太陽、紅白……
こんな感じでイメージを広げていき、それをワンポイントのロゴにしたり、ピクトグラムにしたり、背景にしたり、全体のキーカラーにしたりして処理する。
この辺りはどのデザイナーでも大体同じだと思う。

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パブリック・イメージ→いかにもなイメージ

パブリック・イメージとは何だろうか。それは多くの人が持つイメージや共通認識とも言える。この場合制作者であるデザイナーの主観はいらない、いやむしろ捨てるべきであり、誰も思いつかなかったすごいデザインとは逆のベクトルの、いかにもなイメージのデザインである。
このいかにもなイメージをどれだけ思い浮かべることが出来るか、どれだけ視覚情報として具現化出来るかが職人デザイナーの仕事である。デザイン完成後に、デザインの素人である発注者から「いかにもだねえ」なんて感想が出ればそれは成功と言える。

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大衆の持っているイメージを獲得する方法

多くの人が持っているイメージだから、簡単に思いつくと思ったら大間違いで、これがなかなか訓練を必要とする。私も仕事を初めた頃は、思い浮かぶイメージが貧困であった。先輩デザイナーが次々とアイデアを発想する事に感心していた。それはデザインでも音楽でもそうだが、若い頃にありがちな先鋭的で、アヴァンギャルドで、反体制的なものに憧れるがあまり、対する大衆的でミーハーなものに興味がなかったからである。要するに世間で流行っているモノは、格好悪いと思っていた。これが原因だった。
商業デザインとは、マニアックな少数に向けたものではなく、大衆(マス)に向けたもので、見てもらわなければ意味がない。

では、そんな大衆の持っているイメージを獲得するにはどうすればよいか。それは、自ら進んで流行りものに首を突っ込んでゆく。アーティスト志向の人は実はこれが苦手だ。しかし商業デザイナーである限り、流行りものは何でも見て(観て)、聞き(聴き)貪欲にインプットする姿勢はとても大事だ。それは、いかにもなデザインをアウトプットする時にきっと役に立つだろう。

まとめ

いかにもなデザインありがちなデザインとは少し違う。またパクリとも違う。そこはそれぞれのデザイナーが考え、デザインに落とし込むプロの作業である。デザイナーは、常に世の中の最先端の情報をつかみそれを還元する、なんて抽象的な事を言うと難しいが、要するに上述したように、流行りものは何でも体験してみようという事である。そうしていれば、いかにもなデザインが出来るようになる。そしてそのデザインは商業デザインとして、社会に認知されるようになるのである。

蛇足だが、職人デザイナーに対する、皆が憧れる作家性が強いアーティスト・デザイナー/アートディレクター(本人は必ずしもそうとは思っていない)は、一世を風靡しても流行が去ると、逆に仕事が無くなるパターンが多い。ある有名デザイナーが、一時仕事が全然なくなったと人伝に聴いた事もある。作家性の強いデザインも結局は、大衆による一時の流行りに過ぎないのだ。

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