最近は、WEBや学校などでデザインを学び、いきなりフリーでデザイナーの仕事を始める人が増えているようだ。「ようだ」というのも、このようにデザインを学んだ人が、実践に使えるかどうか分からないからだ。それはWEBや書籍に書いてある事しか知らないからである。
SNSで有名な制作会社の社長が、常日頃「独学やプログラミング・スクールだけで学んだエンジニアは採用しないと」公言しているのも少し分かるような気がする。一人で作業が完結する場合は問題ないが、デザイナーやエンジニアと共同作業する場合には、WEBや書籍に書いてある以外の知識や作業が必要になるからだ。それを知らないと全体に迷惑がかかり、作業が滞ってしまい、最悪の場合、金銭的な損害に及ぶこともあり得る。
そういう事から、WEBや書籍、または学校などでデザインを学んだ後は、短期間でも良いので、制作会社やデザイン会社で働くことを勧めている。
WEBサイトの協同制作
ある企業のコーポレートサイト制作のコーダーとして関わった事がある。ディレクター兼チーフ・デザイナーが突然辞め、人手不足になり私に依頼が来たとの事だった。デザインなしの案件。デザイナーが仕切り、その下にチーフ・コーダーがいた。この二人から指示を受ける。
作業に入る前にチーフとコーディングのルールを打ち合わせる。
その後、デザイナーからトップページと私が担当するサブページのデザインがXDドキュメントで送られてきた。このドキュメントを見て、コーディングを初めてくれと指示を受けた。
この案件は協同でのコーディング作業だ。私が一人で全てをやるわけではない。このような場合、通常下の者にどのような指示を出せばよいのだろうか。
WEBサイトのデザインやコーディングは、サイト全体に統一のスタイルを必要とする。先ずはそのテンプレートになるものを作り、そのテンプレートを下で作業をする者に渡さないと作業が出来ない。それが分かっていないようであった。このような事は当たり前過ぎて意識した事もないのだが、長々と説明して分かってもらえた。
私が仕切るのであれば、何事もなく素材としてはXDドキュメントをもらうだけで、ゼロからコーディングする事で問題ない。具体的には、全体に掛かる共通要素である、ヘッダ、フッタ、グローバル・メニュー、サイドバーなど。またレスポンシブデザインなので、スマートフォン用のメニューや各要素の挙動。これらのHTMLマークアップ。そして共通のCSS。最低限これらをコーディングしたテンプレートをもらわないと、下で作業をする者にコーディングは出来ない。
このようなWEBサイト制作をする上で、私にとって当たり前だと思っていた進行も、独学でWEBや書籍などで学んだ人には分からないかもしれない。どこにも書いていないからだ。
これは雑誌のデザインも同じ。雑誌は週刊、月刊などの定期刊行物であり、デザイン出来る時間が決まっていて、しかも短い。よって複数のデザイナーで1冊をデザインする。その場合も、チーフ・デザイナーがテンプレートとなるInDesignドキュメントを作り、それを元に各デザイナーがデザインする。
ラフデザインの必要性
またこんな事もあった。
ECサイトを自社運営している会社の社内デザイナーがいた。サイトの一部をリニューアルする事になり、上司であるディレクターがこのデザイナーにデザインを依頼した。何度もデザイン案を提出しては却下され、その度に大幅な修正を依頼されかなり疲弊していたので、話を聴いてみると、提出していたのはラフデザインではなく、毎回100%完成されたデザインであった。却下される度に、ピクセルまで完璧に仕上げるので、制作に時間がかかり長時間の残業をしていたのである。これでは疲弊して当たり前。
ここまでの話で、何が問題なのか分からない人もいるかもしれない。
デザイン「案」提出の段階では、100%のデザインではなく、50~60%の未完成ラフデザインを提出する。要するにデザインの「方向性」を見てもらう事が目的でなくてはならない。制作するデザイナーが考えている方向性と、それを判断する者(この場合はディレクター)の方向性が一致しなければ、100%完成されたデザインを提出しても全てゼロからやり直しだ。
この事をそのデザイナーに話したら驚いていた。ラフデザインから提出する方法を知らなかったと。まあ、そのディレクターも上司であれば、それくらい教えてあげれば良いのにとは思ったが。
以上は、いずれも会社に所属しているデザイナーの話であるが、会社に勤めた事がないデザイナーにはよくある話である
印刷工程を含むデザイン
印刷を含む、DTPデザインは学校を出てすぐだったり独学だったりでは無理。WEBとは異なり、印刷という工程が入るからだ。デザイナーが自腹で印刷代を払うのなら失敗しても構わないが、数百万単位の書籍は無理だろう。
チラシやポスター、書籍のデザインをやりたいのなら、デザイン事務所や印刷会社にバイトでもいいので、勤める事を勧める。
SNSに惑わされないために
SNSでは、デザイン事務所や制作会社に勤めた経験なくして、独学で成功したと謳っている人が多い。全てが嘘だと言うつもりはないし、実際それで成功している人も知っている。しかし回り道をする事になるし、どこで知識や経験の欠如から失敗するか分からない。趣味や遊びではなく、プロとして仕事をするのだから。
それなら半年でも1年でもよい、正社員でもバイトでも良いので、会社に勤め、先輩達にいろいろ教えを乞いながら学ぶ方が、給料ももらえるし、後々役に立つだろう。人から直接教えてもらわないと、分からない事も多いのだ。