今年(2022年)も2021年分確定申告の提出がなんとか終わった。フリーランスを含む、自営業のデザイナーは青色申告を自身で行っているだろうか。多くは複式帳簿のいらない簡易な白色申告で済ませていると思うが、デザイナーの場合、仕入れはなく、仕事に必要なものと言っても、書籍などの資料、数年に一度のPC本体や周辺機器、ソフトや文房具の購入くらいだろう。記帳もそれほど複雑ではないので、はじめは面倒だが青色申告にした方が圧倒的に得だ。
青色申告を自分でするメリット
多くの会社員のように会社に属して給与という形で報酬をもらっていなければ、自分で毎年3月15日までに、税務署に確定申告を行わなければならない。これは義務である。
WEB、広告、書籍のデザインを行っている私も直接注文を請けた企業、代理店や出版社から報酬を得ており、個別の売上をまとめ、経費を精算し確定申告をしている。
確定申告をする場合、青色と白色がある。青色と白色の違いは、簡単に言えば帳簿をつけるかつけないか。では何故青色申告の方が得なのか。それは最大65万円の青色申告特別控除が受けられるから。
控除とは何か? 所得税、住民税、国民健康保険などの金額は、確定申告の所得金額(儲かった金額)で決まる。その時の所得金額から、65万円が減額される。要するに税金や保険料が安くなるのだ。これは個人事業主であればかなり大きい。
令和2年(2020)度分までは、複式帳簿を付けていればこの65万円の控除を受けることができたのだが、令和3年(2021年)度分からは、複式帳簿による記帳に加え、e-Taxによる期日(3月15日)までの提出が必須となった。
青色申告を自分でするには簿記の知識が必要
青色申告の場合、売上はもちろん日々事業のために購入した文房具やPCのパーツ、打ち合わせ時の交通費、仕入れ、名刺やパンフレットなどの印刷費も細かく複式簿記で記帳しなければならない。しかしデザイナーの場合、仕入れもないし他の事業と比べ記帳の数は少ない。
少ないとは言っても、複式帳簿の借方・貸方や購入したノート一冊の勘定科目(消耗品費など分類する科目)が分からない。分からないし時間がもったいないから、年度末に税理士に5万円くらい払い、領収書など必要な書類をまとめてすべて任せるのが一般的だろう。また最近は、安価で優れたクラウド会計ソフトがあるので、マニュアルと奮闘しながら、何となくよくわからないまま記帳している人もいるかもしれない。クラウド会計ソフトには、大体仕分けマニュアルのようなものがあるが、やはり簿記の知識がないと厳しい。
先述したようにデザイナーであれば、それほど記帳は複雑ではないし、1ヶ月位簿記を勉強して自分で記帳し、確定申告を提出できるようになった方が後々楽だ。簿記が分かれば節税の方法も分かる。
私の日商簿記受験
私の場合、以前会社を作り法人化する予定だった。そのため会社経営をするには、最低限簿記3級程度の会計知識は必要だと考えていた。そしてたまたま身近な知り合いが簿記学校に通っているというのも影響して、その時期仕事も暇で、いい機会だと思い簿記学校に通いはじめたのが切っ掛けだった。
大学では政治を専攻していたので、経済系の講義も多くあり当然簿記もあったが、当時は音楽家を目指していたので全く興味がなく取っていなかった。簿記学校に通いはじめる時点での知識はゼロ。
水道橋にある簿記学校TACに、午前中3時間の講義を週2回、1ヶ月間受けるスケジュール。当時講義費用は教科書代抜き全部で1万円だったような気がする。講義の他に約1ヶ月間、毎日土日も含め2~3時間かなり集中して勉強した。15年位前の話だ。結果、余裕で簿記3級は合格。昔は教科書を少し読めば独学でも3級は受かると言われていたそうだが、今では無理だろう。
簿記3級を勉強すれば、会社経営に必要な財務諸表のうち、貸借対照表(B/S)と損益計算書(P/L)が読めるようになる。この経験は非常に大きく、一気に世界が広がったような気になった。
そしてはじめのうちは、知り合いや税務署の無料相談で教えてもらいながら、よく理解しないまま記帳していたが、日商簿記合格後は青色確定申告書が分かり、記帳できるようになった。日商簿記の中では現金の取引問題がほとんどなく、手形や小切手での取引が多いので現実的ではなかったのと、事業主貸、事業主借、元入金などの確定申告独特の用語がなかったので最初は戸惑ったが。
その後、簿記学校の勧めもあり簿記2級も合格した。3級の商業簿記に加え、工業簿記が加わるが、これは製造業などに必要で、デザイナーには必要ない。簿記2級のために、6ヶ月間毎日2~3時間勉強したが、3級に比べ長期間で仕事もあるため時間的に少々きつかった。簿記1級の講座も受け、勉強をしたが途中で挫折。1年間毎日2~3時間の勉強時間を取れなかったのが原因。
確定申告をしないとどうなるか
例えばある会社からチラシのデザインの依頼があった。依頼したその会社は、広告宣伝費または外注工賃として経費計上している。そしてデザイン料の支払いを振り込みで行えば、通帳に振込先と金額が記帳される。調べればすぐにデザインをどこにいくらで発注したかが分かる。B to Bの取引は隠しようがない。
先日、以下のような記事があった。
確定申告をせずそのまま放置しているとどうなるのか。以前友人のデザイナーがその状態で、長い間申告せずに放置していたら、ある日区役所から住民税と国民健康保険料の差額を一括で納付するよう通知が来たそうだ。それが高額で一括払いできないと、区役所に相談してなんとか分割にしてもらったとか。この友人は出版社からの下請け仕事だけなので、源泉徴収分が引かれていたため、所得税は収めなくてよかったのだろう。所得税の未納があったのなら延滞金を加え、さらに大変な額になっていたはずだ。下請け仕事だけであれば既に源泉徴収してあるので、正しく確定申告すれば、還付金があるのが普通だ。
では通知があるまで住民税と国民健康保険料はどうなっていたのか。詳しくは聴いていないが、保険料を払っていないと保険証がなく医者に行くことができない。これは推測だが、税務署に確定申告を行っておらず、また区役所にも申告を行っていない場合、税額や保険料を算出できない。そこで通知をするまでの間に、とりあえず基準額のようなものがありその額を払ってもらっているのではないだろうか。その間に無申告者に対する、税務調査のようなものが行われているのかもしれない。
いずれにしてもバレるので、確定申告は行わなければならない。
ちなみに確定申告の期限は守らなくても、数日なら延滞金もないし、大して影響がないと思っているいる人は甘い。もし今後、新たな事業をはじめる場合、どこかに融資の申込みをする、またはコロナなどの影響を受けたので給付金を受ける。これらの場合、その時までの確定申告書を提出する必要がある。その時に期限が過ぎている確定申告書を提出すると断られる。もちろん65万円の青色申告特別控除も受けられない。どんなに忙しくても期限は厳守すべきだろう。
まとめ
仕入れなどがないデザイナーという職業は、複式帳簿の記帳の他業種と比べると簡単だ。しかし複式帳簿には簿記の知識が必要。1ヶ月位勉強すれば日商簿記3級は合格できる。その1ヶ月間は時間的に厳しいかもしれないが、自分で青色確定申告の提出が出来るようになるし節税もできる。そして貸借対照表や損益計算書も読めるようになる。なんと言っても65万円の青色申告特別控除が適用される。
確定申告する人は必読の本。
「領収書でなくてレシートではダメなのか?」「領収書がない場合はどうするのか?」など、フリーランスの著者と匿名の税理士のよる会話形式の本。分かりやすく、他の本ではあまり書いていないような(書けないような)ことまで書いてあり、私は初版を読んだのだが、かなり参考になった。お勧め。