「かき氷やってます!」 氷旗デザインの不思議

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 夏になると店先にゆらゆらとはためく「かき氷やってます!」のメッセージを発する「氷旗」。「氷」という文字を見なくとも白地に赤の「氷」の文字、その下に「波」、時々氷の文字の上には「千鳥」が飛んでいる。一瞬でどんな遠くからでもかき氷を提供している店である事が分かるほどメジャーなデザインです。要素としては2つか3つの簡素なデザイン。元は波と千鳥を組み合わせた日本古来のデザインである「波千鳥」をベースに明治時代に「氷」の文字を配置し作られた優れたデザインとして知られていますが、その詳しい由来は分からないようです。身近に生息する「千鳥」と涼しさの象徴である「波しぶき」、昔の人が涼しさと言えば「波しぶき」だったというような説明はありましたが釈然としません。もしこのデザインが今存在せず、かき氷を売る店からかき氷の旗をデザインして欲しいと注文を受けた時に果たしてこれに近いデザインを私は思いつくでしょうか。大体「冷たい」ものなのに赤文字というのが私には出ないデザインだったりもします。そんな事を街を歩き氷旗を見た時に思いました。

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デザインをする。まず始めに考えるのは

 広告デザイン、ロゴ・デザイン、ピクトグラム、書籍の装丁…ほぼどのデザインをする場合にでも、デザイナーが注文を受けアイデア出しをする時に考えるのが、対象となる商品やサービスの属性です。対象となる物の特徴や多くの人がそれを見て想起する“いかにも ” な物を元にアイデア出しをします。例えば歯科医院の看板をデザインする時「歯」の形をどこかに取り入れる。ヘヴィ・メタル系アーティストのCDジャケットを制作する時に骸骨や悪魔を元にデザインしようとする。花屋のロゴを制作する時にどこかに花の形を取り入れる。もしデザイナーがクライアントにデザイン案を3案提出する場合に1案はこの様に誰が見ても“ありがちな ” モチーフをデザインに取り入れる案を提示します。そんな私もデザインの仕事をやり始めた頃は今までにない奇抜なデザイン案を出すことに注力していて、当たり前の“ありがちな”デザインは価値がないと思っていました。誰でも思いつくようなものですから。報酬をもらう以上オリジナリティを出さなくてはとアーティスト気取りだったわけです。
 しかしプロになりデザインをしてみるとこの“ありがち”がなかなか思いつかない事が多々あります。それは物ではなく動作やサービスなどのデザインをする場合です。そんな時は既存のピクトグラム(アイコン)を参考にすることもあります。ピクトグラムやアイコンは動作やサービスの特徴をヴィジュアル的に余計な要素を削ぎ落とし一瞬で認識できるように凝縮したものですから。

もし今、かき氷の旗のデザインを依頼されたら

もし「かき氷」を提供している店から「かき氷やってます!」の旗のデザインを依頼された場合、「氷旗」以外であれば、実際のかき氷をイラストやアイコン化したイメージをどこかに配置するかもしれません。左のイラストにも赤と青の現在の氷旗の2色が使われている事から氷旗のイメージが強力に人の心に印象付けられている事が分かります。

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「氷旗」のデザインを分解してみると

千鳥文様
波しぶき

 「氷旗」を分解すると上記の3つの要素に分かれます。旗のデザインが出来たのは明治時代のようですが、「千鳥文様」と「波しぶき」を組み合わせて涼しさを表した「波千鳥」文様はそれ以前、日本古来のデザインらしいのです。誰が最初にデザインしたのか分かりませんが明治に旗をデザインしたデザイナーのデザイン思考過程としては、

かき氷の旗のデザインを依頼された

夏に冷たい(涼しい)食べ物のイメージ

冷たい(涼しい)と言えば昔から“ありがち”なのは「千鳥文様」に「波しぶき」を組みわせた「波千鳥」だろう

かき氷は氷から出来るから「氷」と入れておけば分かるだろう

こんな思考を通してデザインされたものと思われます。「波千鳥」が涼しさを表すというのは現代にはないような気がしますが、それよりも何故「氷」の文字を赤にしたのか。実はそれが1番気になりました。涼しい冷たいを表す色ではないので。では、涼しい色にしたらどうでしょうか。

一応「氷」の文字は波の色と同化しないよう少し薄めの青色にしました。が、これインパクトないですね。涼しいという“ありがち”なデザインに氷の文字を載せるとした青の補色(反対色)「赤」がやはり適当なのです。こんな風に考えてゆくと現在の配色になりますが割と冒険したようにも思います。「赤」のインパクトが強すぎるので。しかしもしかしたら氷旗のデザインがあまりにも現在のかき氷のイメージとして浸透し過ぎて「赤」でないとなんとなく違和感を感じるのかもしれませんが。

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そして現在、氷旗の扱い

 現代ではこの氷旗自体が強力なアイコンとなり、この旗を見れば「かき氷」という印象を誰にでもいだかせます。ですから何かかき氷関連の商品やサービス、例えばかき氷機のパッケージデザインをする場合にはこの氷旗のデザインをどこかに配置すれば「これはかき氷に関係する機械だな」と認識するわけです。
 デザイナーはもちろん、デザイナーではない人が何かデザインをする場合、奇抜なデザインをするよりもあえてこのような“ありがちな”デザインを1案出すのも悪くないと思います。誰が見ても分かるデザインというのはいつでも必要ですから。

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